天然ダイヤモンドかラボグロウンダイヤモンドか?

2021年11月

ラボグロウンダイヤモンドを使った宝石が宝飾主要ブランドでも取り扱われるようになり、「天然かラボグロウンダイヤモンドか?」といった議論を耳にするようになりました。ラボグロウンダイヤモンドの販売企業は、ラボグロウンダイヤモンドは紛争と無関係でかつ、環境負荷の小さいエシカルジュエリーとして売り出しているのをよく見かけます。
(補足:エシカルという語に厳密な定義はありませんが、一般的に「人や地球環境、社会、地域に配慮した」の意味で使用されています)。

しかし、それは本当でしょうか?

消費者である私たちは、天然であれラボグロウンであれ、手元に届くまでの過程を知った上で、ダイヤモンドを選択することが大切です。そうすることでダイヤモンド産業が、真に紛争や環境破壊と関係がなくなるなることに貢献することができます。

ここでは、両ダイヤモンドについて詳しく学びましょう。物理的特性、環境負荷、社会経済的インパクトの観点から両者を比較していきます。

1. 物理的特性

天然ダイヤモンドとラボグロウンダイヤモンドの物理特性は、以下に示すとおり全く同じです。

化学式 熱伝導率 モース硬度 密度(g/cm2) 光学分散
天然ダイヤモンド C High 10 3.51 0.044
ラボグロウンダイヤモンド C High 10 3.51 0.044

表. ダイヤモンドの物理的特性比較 ( Japan Grown Diamond Association)

天然ダイヤモンドには少なからず内包物が混ざっており、それが一粒一粒の個性を生みだします。全く内包物のない天然ダイヤモンドは存在しません。一方で、ラボグロウンダイヤモンドには内包物がほとんどありません。

このほか、天然ダイヤモンドとラボグロウンダイヤモンドは結晶形にも違いがあります。天然ダイヤモンドは八面体の結晶になりますが、ラボグロウンダイヤモンドは八面体と立方体の結晶になります。

2. 製造過程

天然ダイヤモンドが地球の奥深くで長い年月をかけて生み出されるのに対し、ラボグロウンダイヤモンドは工場にて数日から数週間で作ることができます。ラボグロウンダイヤモンドの製造方法は、地中と同じ環境を作りだす高温高圧法(HPHT法)と、ダイヤモンドを層状に成長させる化学気相蒸着法(CVD法)が主流です。

図.ラボグロウンダイヤモンドの製造過程 (SHINCA laboratory grown diamond)

ラボグロウンダイヤモンドと天然ダイヤモンドは異なる成長過程を辿ります。天然ダイヤモンドは、八面体を形成するのに対し、ラボグロウンダイヤモンドは製造方法により、立方八面体あるいは立方体を形成します。しかし、一旦、ダイヤモンドが磨かれ、宝石になると人間の目には区別がつきにくいです。

(参考1)カーボンネガティブダイヤモンド

英国のSKY DIAMONDという企業は、空気中の二酸化炭素からダイヤモンドを製造しています。製造に必要なエネルギーにもグリーンエネルギーを使っており、ダイヤモンドを製造することにより空気をきれいにするカーボンネガティブダイヤモンドと称しています。

(参考2)ヴィーガンダイヤモンド

米国のAetherという企業は、空気中の二酸化炭素からダイヤモンドを製造するとともに、2021年4月には、世界のダイヤモンドで初めてVegan Actionという認証機関からヴィーガン認定を取得しています。

3. 価格

ラボグロウンダイヤモンドの平均小売価格は天然ダイヤモンドの45%~50%(2019年)1) であり、天然ダイヤモンドより安価となっています。

図. 天然ダイヤモンドとラボグロウンダイヤモンドの価格比
(The Global Diamond Industry 20191))

4. 生産量と生産国

2019年時点でのラボグロウンダイヤモンドの生産量は、天然ダイヤモンドの3.7%程度です。一方、ラボグロウンダイヤモンド市場は2020年から2025年にかけて7%2)を超える年平均成長率で成長すると予測されています。

天然ダイヤモンドの主な生産国3)は、ロシア、カナダに加えアフリカ諸国が多く、ラボグロウンダイヤモンドはその半分以上が中国で製造されています4)

図. 天然ダイヤモンドとラボグロウンダイヤモンドの生産国と生産量
(Diamond production, carats in, The Global Economy.com3) ,Market share of lab-grown diamonds worldwide in 2019, by country, Statista4)

5. 環境負荷

天然ダイヤモンド、ラボグロウンダイヤモンド共に、生産・流通過程における環境負荷に関して、企業の情報開示が限定的で正確な情報を入手するのが困難です。

ラボグロウンダイヤモンドを製造する米国のDiamond Foundry が第3者機関の算出結果として提供するダイヤモンド・サプライチェーン全体での環境負荷は、生産国に関わらず圧倒的に天然ダイヤモンドが大きくなっています(下図参照)。

図.環境負荷 (Diamond Foundry)

一方、米国のESGリスク評価を行うTrucost5)が温室効果ガスに限定した比較を行ったとし、ラボグロウンダイヤモンドの環境負荷が天然ダイヤモンドの3倍を上回る結果を提示しています。

図. 各商品生産にかかる温室効果ガス排出量
(Synthetic Diamond Market – Growth, Trends, and Forecast (2020 – 2025), Global Information, Inc.)

両データを総合すると、製造過程そのものだけを取り上げるとラボグロウンダイヤモンドの環境負荷が高く、製造過程以外に付随する土地への影響など考慮して総合的に評価すると天然ダイヤモンドの負荷のほうが大きいと言えそうですが、両データとも入手不可能な数値は仮定を置いて算出されている点に留意が必要です。併せて、前者の比較は、ラボグロウンダイヤモンド製造企業が提示していること、一方、後者の比較は天然ダイヤモンド生産企業が第3者機関に依頼して算出していることを鑑みると、どちらも完全に客観的な数値とは言いきれません

ラボグロウンダイヤモンドは、既に様々な企業が参入し証明しているように、再生エネルギーを活用すれば、より環境負荷の低いダイヤモンドとなりえます。しかし、ラボグロウンダイヤモンドの多くが中国で生産され、且つ、発電に化石燃料を大量に利用していることを鑑みると、その道のりはまだまだ遠いと言わざるをえません。

環境負荷について考える際は、温室効果ガス排出量だけでなく採掘や工場設置に伴う土地の荒廃、水資源の利用や排水状況、野生動物生息地への影響、廃棄物処理・保管およびそれに伴うリスクも考慮する必要があるでしょう。

6. 経済効果

Trucost 6)は、世界の7大ダイヤモンド生産企業による天然ダイヤモンドがもたらす社会経済効果を以下のとおり提示しています。採掘国の雇用創出や政府の収入に貢献しています。

図. 2016年の世界7大天然ダイヤモンド生産企業の社会経済効果
(Synthetic Diamond Market – Growth, Trends, and Forecast (2020 – 2025), Global Information, Inc.)

例えば、ボツワナでは、GDPの30%がダイヤモンドを主とする鉱物起源、輸出額の90%をダイヤモンドが占めており(2013年)7)、国家や貧困層の主要な収入源となっています。

世界の7大ダイヤモンド生産企業が運営するのは大規模鉱山ですが、他に中規模や手掘り小規模鉱山も世界中に存在します。世界の天然ダイヤモンド産出の約2割は、手掘り小規模鉱山からの産出です(DELVE12。8割から9割の手掘り小規模鉱山は非公式に運営されているため労働者数の正確なデータは存在しませんが、ゴールド等も含めた世界中の手掘り小規模鉱山で働く労働者数は4,467万人とされています(DELVE12。そのうちダイヤモンド産出が有名な12カ国(ほぼアフリカ諸国)を抽出し半数をダイヤモンド鉱山労働者数と仮定すると、271万人に上り、ダイヤモンド産業がこれらの労働者とその家族の生計を支えていることが分かります。

一方で、ラボグロウンダイヤモンドは主な製造国である中国、インド、アメリカ等に経済効果をもたらしています。ラボグロウンダイヤモンドの市場規模は19.3兆米ドル11)(2020)であり、今後も成長することが予想されています。各国におけるラボグロウンダイヤモンドの製造量に応じてその経済効果を試算すると、中国10.8兆米ドル、インド2.9兆米ドル、米国2.5兆ドルとなり、各国の1人あたりGDP10)を用いて計算すると、中国66万人、インド47万人、米国4万人分のGDPに相当する経済効果となっています。

ラボグロウンダイヤモンド市場における主要なプレイヤー11)として、ABD Diamonds, Clean Origin, De Beers Group, Diam Concept, Diamond Foundry Inc., Henan Huanghe Whirlwind Co., Ltd, Mittal Diamonds, and New Diamond Technology LLC等があげられており、ラボグロウンダイヤモンド製造を専門にしている企業のみならず、天然ダイヤモンドを取り扱ってきた企業も参入しています。これ以外にも、2)製造過程で取り上げた、グリーンエネルギーからダイヤモンドを生産しようとするスタートアップ企業が続々と出現しています。

7. 人権課題

天然ダイヤモンド採掘・輸出において、不安定な政権下にある国や、ダイヤモンド採掘・輸出に関する法律・制度が未整備な国、政治が腐敗した国では人権侵害、児童労働が発生していることが多く指摘されています。紛争ダイヤモンドとして知られるように、不正に取引されたダイヤモンドが紛争やテロ資金になっていることもあります。

これに対応するため、国連は2002年に、採掘されたダイヤモンド原石が武装グループの紛争資金に活用されていないことを証明するキンバリープロセス認証制度を設立しました。

一方で、キンバリープロセスは、ダイヤモンドが政府軍の紛争資金になっている場合や、武装勢力以外が引き起こす人権課題、カットや研磨のプロセスを経たダイヤモンドには適用されないことから、その認証範囲に限界があります。キンバリープロセスの詳細はこちらで紹介しています。

ラボグロウンダイヤモンドは、工場で製造されるため上記のような人権問題は起きていないと製造・販売企業は主張していますが、具体的な根拠を示しているわけではありません。また、主要な生産国は中国であり収益の一部が中国政府の資金源となります。中国政府が言論・報道の自由を規制していること、新疆ウイグル自治区においてはウイグル人が強制収容され洗脳教育等をされていることや8)を考慮に入れると、ラボグロウンダイヤモンドが人権課題と無関係とは言いきれません。

国際的な業界指針の動向

ラボグロウンダイヤモンドが市場に登場してからの年数が浅いため、多くの国際宝飾業界団体は現在ラボグロウンダイヤモンドに関する指針や基準を検討している最中です。

いち早く動いた国際貴金属宝飾品連盟(CIBJO)が2021年1月に発表したラボグロウンダイヤモンドガイダンスには、環境配慮等に関して重要な点として以下が挙げられています13

♦天然ダイヤモンド、ラボグロウンダイヤモンドに関わらず、消費者は購入しようとしている製品に関して明確で漏れのない情報を受取らなくてはならない。

♦天然ダイヤモンド、ラボグロウンダイヤモンドに関わらず、マーケティング関係者は測定可能かつ確固たる環境・エコの数値を示せない場合、「環境にやさしい」「エコ・フレンドリーである」「エシカル」「グリーン」「責任を持って(製造された)」「サステナブル」等の主張をすべきでない。このような主張をする場合は、独立した第三者が確認した根拠と共にすべきである。またその根拠を、企業ウェブサイトに掲載すべきである。

♦特に製品がカーボンニュートラル(工程における温室効果ガス排出量がプラスマイナスしてゼロ)であると主張する際は、信用のおける独立した第三者による確認の他、工程において温室効果ガス排出がゼロなのか、カーボン・オフセット・クレジットを購入してゼロにしたのかを明記すべきである。

第三者による客観的な根拠を示さないダイヤモンド製造取扱企業が乱立していることが国際的にも問題となっていることが、上の内容から窺えます。

責任あるジュエリー協議会(Responsible Jewellery Council、略称RJC)は、2022年にラボグロウンの宝飾原料に関する指針を公表予定14で、その内容も待たれるところです。

まとめ

天然ダイヤモンドとラボグロウンダイヤモンドはどちらも物理的特性から本物のダイヤモンドです。これまで見てきたように、環境負荷の大小、社会経済的効果の大小、人権課題の有無は、採掘国・製造国により状況が異なるため、天然だから環境負荷が大きい、ラボグロウンだから人権侵害がない、などと一概に言うことはできません。消費者である我々は、ダイヤモンドを購入する際に、それが天然であろうと、ラボグロウンであろうと、どのような過程を経て店頭に並んでいるのか、どの国・地域でどのように生産・製造されているかを、確認する必要があります。

購入の際に次のような質問をして、自分が納得のいくダイヤモンドを購入しましょう。

♦そのダイヤモンドはどこで製造されましたか?
♦そのダイヤモンドの売上は誰の収入になりますか?
♦そのダイヤモンドは紛争資金源になっていませんか?
♦そのダイヤモンドの生産過程における環境負荷はどれくらいですか?
♦そのダイヤモンドの生産過程において人権侵害は起こっていないですか?

認証の取得状況について聞いてみるのも一案です。認証を取得しているからといって、全ての課題をクリアしているとは限りませんが、責任ある調達への意識の表れの1つと言えるでしょう。

消費者である我々が、その認証は具体的に何を認証しているのかを理解することも、納得いく意思決定をする上で重要です。

 

冒頭写真:ダイヤモンドイメージ写真(Fotolia)

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[出典]

1)The Global Diamond Industry 2019, Antwerp World Diamond Centre and Bain & Company https://www.bain.com/contentassets/e225bceffd7a48b5b450837adbbfee88/bain_report_global_diamond_report_2019.pdf

2) Synthetic Diamond Market – Growth, Trends, and Forecast (2020 – 2025), Research and Markets
https://www.gii.co.jp/report/moi568520-global-synthetic-diamond-market-segmented-by-type.html

3) Diamond production, carats – country rankings, TheGlobalEconomy.com
https://www.theglobaleconomy.com/rankings/diamond_production_carats/

4) Market share of lab-grown diamonds worldwide in 2019, by country, Statista
https://www.statista.com/statistics/1077662/global-market-share-lab-grown-diamonds-by-country/

5) The Socioeconomic and Environmental Impact of Large-Scale Diamond Mining, S&P Global
https://www.spglobal.com/marketintelligence/en/documents/the-socioeconomic-and-environmental-impact-of-large-scale-diamond-mining_dpa_02-may-2019.pdf

6) Artisanal and Small-Scale Mining, The World Bank
https://www.worldbank.org/en/topic/extractiveindustries/brief/artisanal-and-small-scale-mining

7) BOTSWANA: Systematic Country Diagnostic, The World Bank
http://documents1.worldbank.org/curated/en/489431468012950282/pdf/95304-REPLACEMENT-SCD-P150575-PUBLIC-Botswana-Systematic-Country-Diagnostic-Report.pdf

8) 『血筋を絶やし、ルーツを絶やせ』:中国政府によるウイグル他テュルク系ムスリムを標的にした人道に対する罪, Human Rights Watch
https://www.hrw.org/sites/default/files/media_2021/04/Summary%20and%20Recs%20Japanese.pdf

9) 2020 State of the Artisanal and Small-Scale Mining Sector, DELVE
https://delvedatabase.org/resources/2020-state-of-the-artisanal-and-small-scale-mining-sector

10) GDP par capita, World Bank
https://databank.worldbank.org/home.aspx

11) Lab Grown Diamonds Market by Manufacturing Method, (HPHT and CVD), Size (Below 2 Carat, 2-4 Carat, and Above 4 Carat), Nature (Colorless and Colored) and Application (Fashion and Industrial): Global Opportunity Analysis and Industry Forecast, 2021–2030, Allied Market Research
https://www.alliedmarketresearch.com/lab-grown-diamonds-market-A13694

12) DELVE, A Global Platform for Artisanal & Small Scale Mining Data, World Bank and Pact
https://delvedatabase.org/

13) Laboratory Grown Diamond Guidance, The World Jewellery Confederation (CIBJO)
https://www.cibjo.org/laboratory-grown-diamond-guidance/

14) Laboratory Grown Material Standard Development, Responsible Jewellery Council (RJC)
https://www.responsiblejewellery.com/standards/standards-development-harmonisation/laboratory-grown-material-standard-development/