リベリア内戦時の様子(パブリックドメイン、US Marines)

※紛争ダイヤモンドに関する個別の記事は、紛争ダイヤモンドカテゴリーをご覧ください。

紛争ダイヤモンドとは、紛争の資金源となるダイヤモンドのことです。
コンフリクト・ダイヤモンド、ブラッド・ダイヤモンドや血塗られたダイヤモンドとも言われます。

◆アフリカ各地で、内戦を悪化させるダイヤモンド
1980~90年代、アフリカの多くの地域で内戦が起きました。そして、今でも中央アフリカ共和国やコンゴ民主共和国で断続的に戦いが起こっています。

それらの内戦を悪化させた(させている)のが、ダイヤモンドをはじめとする資源です。資源を売った資金で武器を購入した結果、内戦が激化し多数の人々が亡くなったり、子どもが兵士になることを強要されたり、手足を失ったり、レイプされているのです。

ダイヤモンドを資金源とするアフリカの主な内戦       ダイヤモンドを資金源とするアフリカの主な内戦

2006年に公開された映画「ブラッド・ダイヤモンド」(レオナルド・ディカプリオ主演)は、シエラレオネの内戦で、反政府軍が地元民を強制労働させる様子、子ども達を麻薬漬けにし少年兵に仕立て、自分の故郷や家族を襲わせる様子、襲撃した村人の手足を切断する様子などが描写されています。

あまり見たくないシーンの連続ですが、映画は、多くの人が見るためにあまり多くの残酷なシーンを含めることは、出来ません。

2012年に私がシエラレオネ最大のダイヤモンド産出地域であるコノを訪問したときに会った現地男性は、手首を切断されて生き残った人なのですが、当時の凄まじい話を延々と語ってくれました。その話は、とてもここに書ける内容ではありません。あまりにも酷い話で、聞いていてだんだん胃がムカムカしたので、途中で話を終わらせてもらったほどです。

シエラレオネの内戦中の様子を話してくれた男性シエラレオネの内戦中の様子を話してくれた男性 (撮影:村上千恵、2012、シエラレオネ)

シエラレオネの内戦は、物理的には終わったのかもしれません。
しかし、手足を失った人 レイプされた人 家族を失った人々の傷が癒える事は、ありません。彼らにとっての内戦は、終わることはないのです。

ダイヤモンド原石がこれらの数々の内戦の資金源になったことが問題になり、国連でキンバリープロセス認証制度(Kimberley Process Certification Scheme)が、2002年に採択されました。キンバリープロセスは、一定の成果を挙げてはいますが、多くの課題を抱えていることも事実です。

◆キンバリープロセスとは?
キンバリープロセス認証制度の問題点や成果を挙げる前に、まず、キンバリープロセスについて説明します。

キンバリープロセスを一言で言うと「ダイヤモンド原石を輸出する時、これは紛争ダイヤモンドではありませんという証明をつけて輸出する取り組み」のことです。

これだけ聞くと、非常に良さそうな取り組みですね!
ダイヤモンド産出国がキンバリープロセスを実行するために必要な法律を整備し、関係者が「紛争ダイヤモンドは、悪である」という認識を持つに至った点は、評価に値すると考えます。実際、1990年代と比較したら、紛争ダイヤモンドの流通量は、減っているでしょう。

しかしキンバリープロセスは、多くの課題も抱えています。欧米では、それらが認知されつつありますが、日本では残念ながらほとんど知られていません。

 

◆キンバリープロセス認証制度の課題
1)目的
キンバリープロセス認証制度(以下、キンバリープロセス)はそもそも、ダイヤモンド原石が紛争の資金源となることを予防する目的で制定された認証制度です。言い換えると、紛争の資金源以外の問題には一切関与していないということです。

ダイヤモンドにまつわる課題には、様々なものがあります。紛争の資金源、労働者の極度の貧困、児童労働、強制労働、債務労働、暴力、搾取、密輸、環境破壊、サプライチェーンの複雑さ、運用…。

仮にキンバリープロセスが完璧に運用されていたとしても、上の課題のうち解決できるのは紛争の資金源の問題だけ。

さらに問題だと思われるのは、キンバリープロセスの内容を理解している人が少なく、「キンバリープロセスに認証されているのだから、ダイヤモンドには問題なんて無い」と思いこんでいる人が多いのが日本の現状です。

2)定義
では、キンバリープロセスの紛争ダイヤモンドの定義をみていきましょう。

“CONFLICT DAIAMONDS means rough diamonds used by rebel movements or their allies to finance conflict aimed at undermining legitimate governments.”(Kimberley Process Certification Scheme, Section Iより)

「紛争ダイヤモンドは、正当な政府を転覆させることを目的とする反政府軍による紛争の資金源として用いられるダイヤモンド原石を意味する」(DFP訳)という意味です。

ポイント1定義が反政府軍による活動に限定
つまり政府軍が紛争や人権抑圧に使う目的でダイヤモンドを資金源としても、それは紛争ダイヤモンドではないという解釈です。

例えば、アフリカ南部にあるジンバブエはムガベ大統領が率いるジンバブエ・アフリカ民族同盟愛国戦線を旧与党とする、実質的軍事政権の国です。ジンバブエには大きなダイヤモンド鉱山があり、ジンバブエ軍がそれらを制圧しています。最も有名なマランゲダイヤモンド鉱山では、軍や警察が鉱山で子どもを含む地元住民に強制労働をさせ、拷問・暴力・レイプ・殺人をしたという報告が国際NGOのヒューマンライツウォッチからされています[i]

それにもかかわらず、ジンバブエのダイヤモンドは紛争ダイヤモンドの定義にあてはまらないため、キンバリープロセスはジンバブエのダイヤモンドを疑問視せず、2010年にジンバブエのダイヤモンド輸出を解禁しました。つまり、ジンバブエでこのような状況下で採掘されたダイヤモンドは何ら問題のないダイヤモンドとして、キンバリープロセス認証され、通常の市場に流通しています。

これに関するニューズウイークの記事を読みたい方は下のリンクをご覧ください。
「血のダイヤ」取引解禁でムガベ高笑い(2010年8月19日)
http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2010/08/post-1536.php

また、反政府軍が政府軍に勝ち政権を奪取すれば、もともとの反政府軍は政府軍になります。政府軍になれば、鉱山近隣住民を襲ったり強制労働させた上でダイヤモンドを得ても、紛争ダイヤモンドの定義には当てはまらないため、キンバリープロセスに認証されたダイヤモンドとして公式に輸出することができます。

ダイヤモンド産出国が多いアフリカでは未だ紛争が散発し、反政府軍が政府軍を倒し、政府軍に変わることも珍しくありません。そのような状況下で、紛争ダイヤモンドの定義を「反政府軍による活動」に限定する意味はないように思えます。

ポイント2定義がダイヤモンド原石に限定
内戦・紛争の多いアフリカでは、ほとんどの国が原石を輸出しているため、紛争ダイヤモンドの定義がダイヤモンド原石に限定されているのかもしれません。これはつまり、カット・研磨済のダイヤであれば紛争の武器等を購入する資金源になっても「紛争ダイヤモンドではない」という解釈になります。

例えばイスラエルは、世界三大カッティングセンターの一つと言われ、ダイヤモンドの研磨・カット業界で有名です。誰もが知っているジュエリーのスーパーブランドの多くが、イスラエルでカット・研磨されたダイヤモンドを使っています。2013年のイスラエルから外国への全輸出額のうち23.5%は研磨済ダイヤモンド、4.9%は未研磨のダイヤモンドが占めており[ii]、イスラエル経済を牽引している産業の一つがダイヤモンドであることは疑問の余地がありません。

 

同時に、イスラエルの国防軍は、世界でも有数の戦争遂行能力を有していると言われています。2013年のイスラエルの軍事費はGDPの5.6%で、アメリカ3.8%、イギリス2.2%、中国2.1%、日本1.0%と比較し、世界の中でもGDPに占める軍事比率が高くなっています[iii]。イスラエルとパレスチナ間は長年断続的に戦っており、戦いに使われるイスラエルの軍事費を支える税金は、主要産業のダイヤモンド業界からかなりの額がもたられていると推測できます。一説には、年間約1,000億円がイスラエルのダイヤモンド業界から軍事費に流れているという話もあります[iv]

海外には、イスラエルで研磨・カットされたダイヤモンドは紛争ダイヤモンドであると考え、イスラエルを経たダイヤモンドをボイコットするキャンペーンをしている人達も存在します。

3)運用
キンバリープロセスの3つ目の課題は、運用に関するものです。キンバリープロセスは、加盟国が自主的に運用しています。また、強制力がないため、違反しても罰則はありません。

キンバリープロセスの加盟国の多くはアフリカ諸国であり、決められたルールに則って制度を運用する能力がまだ十分でないケースが散見されます。同時に、アフリカ諸国では紛争ダイヤモンドを抑止することより、原石輸出の際の税金を徴収する目的でキンバリープロセスを用いているという報道もあります[v]

2014年5月にDFP代表理事の村上がリベリアの採掘担当省でキンバリープロセスを担当する副大臣に面会した際、キンバリープロセスがどの程度きちんと運用されているのか聞いてみました。すると「運用は難しい」という回答で、理由としては政府が違法採掘者を取り締まることができない点、統計をとることができない点(地方から上がってくる数値が推定の数値でしかないとのこと)、国境警備が甘く密輸を取り締まれない点が挙がりました。

リベリアの地方を訪問した際にも、同様の質問を採掘担当官に聞いてみました。

回答は、「州に数人しか取り締まる担当官がいない。移動もバイクのみで、ガソリン代がほとんど支給されていない。この状態で違法採掘者や密輸業者を取り締まることは無理だ」とのことでした。

DFP代表理事の質問に答える、リベリア共和国ケイプマウント州の採掘担当官。 (撮影:DFP、2014、リベリア) DFP代表理事の質問に答える、リベリア共和国ケイプマウント州の採掘担当官。(撮影:DFP、2014、リベリア)

キンバリープロセスの議長は、加盟国が持ち回りで1年間務めます。任期が1年と短いため、その間に何か画期的なことをしようというインセンティブが働きづらく、何事もなく任期を終えられればいいという傾向にあるようです。

 

ちなみに、本当に紛争が起こった際には、当該国からのダイヤモンドの輸出を禁じる経済制裁が国連によって課されます。しかし、禁輸措置が取られているというのは、当該国で採掘が行われていないという意味ではありません。

 

実際、コートジボワールでは、2014年2月まで禁輸措置が取られていましたが、通常より小さな規模で採掘は行われており、採掘されたダイヤモンドはブルキナファソやマリ等の近隣諸国から来た仲介人が購入し、どこかに流していたそうです。それは、コートジボワールではダイヤモンド業界関係者であれば誰もが知る事実です[i]

しかしキンバリープロセスの公式サイトには、2011年から2013年のコートジボワールでのダイヤモンド産出及び輸出はゼロと記載されています[ii]。これは、公式数値と実際の運用に乖離があることを示しています。

rough diamond DFP
コートジボワールの零細採掘労働者が採掘したダイヤモンド原石。ここでは、労働者組合が組織され、利益が村の開発に使われている。しかし、国外に輸出できる公式輸出業者が政府に任命されていないため、マリなどの近隣国からきた仲買人がこのダイヤモンドを密輸することになる。(撮影:DFP、2015、コートジボワール)

キンバリープロセスには、加盟国の他、国際NGO数団体が公式オブザーバーとして参加しています。設立当初から公式オブザーバー参加をしていたGlobal Witnessは、それまでに何度も提案してきた人権侵害問題をキンバリープロセスが全く取り上げようとしないこと、ジンバブエ、コートジボワール、ベネズエラ等の紛争ダイヤモンドを放置していること等を理由として、2011年12月にキンバリープロセスから脱退しています。[i]

◆まとめ

これまで見てきたように、キンバリープロセス認証制度は、紛争ダイヤモンドを抑制する一定の成果を挙げつつも、多くの課題を抱えています。
整理すると以下のようになります。

1. 目的
紛争ダイヤモンドを抑制する目的であり、ダイヤモンドが抱える他の課題(児童労働、強制労働、債務労働等の人権侵害、環境破壊等)には関与しない。

2. 紛争ダイヤモンドの定義
a) 反政府軍の活動による紛争の資金源に限定
b) ダイヤモンド原石に限定

3. 運用
a) 加盟国の自主的な運用
b) 強制力なく、罰則なし
c) 運用能力の未熟さ
d) 認証制度改善への意識の低さ

このような課題が欧米では問題視され、キンバリープロセスに変わる新たな認証制度を作るべきであるという議論もでています。しかし、ダイヤモンドは多くの国・企業・団体が様々な思惑を持ち動いている業界なので、大多数の人々が合意する解決策に至るのはまだ先のことになりそうです。

 

紛争ダイヤモンドについてもっと知りたい方は、紛争ダイヤモンドカテゴリーをご覧ください。

【注意】

当会がダイヤモンドにまつわる課題を啓発しているのは、課題を正しく認識することが解決への第一歩であると考えているからです。当会は天然ダイヤモンドの市場からの排除や消費者のみなさんにボイコット・購買拒否を呼びかけてはおりません。あくまでもこれらの課題の解決をめざして活動していますので、ご理解のほどお願いいたします。

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[i] Global Witness, “Press Release on December 2, 2011,” http://www.globalwitness.org/library/global-witness-leaves-kimberley-process-calls-diamond-trade-be-held-accountable (2015年2月28日閲覧)

[i] 2015年1月にDFP代表理事村上が行った、USAID PRADDIIプロジェクト関係者からのヒアリングに基づく。

[ii] Kimberley Process, “Cote d’Ivoire,” http://www.kimberleyprocess.com/en/c%C3%B4te-divoire (2015年2月28日閲覧)

[i] Human Rights Watch, 2009, “Diamonds in the Rough” http://www.hrw.org/sites/default/files/reports/zimbabwe0609web.pdf(2015年2月25日閲覧)

[ii] JETRO, 2014, 「イスラエル」 https://www.jetro.go.jp/world/gtir/2014/pdf/2014-il.pdf(2015年2月25日閲覧)

[iii] The World Bank, “Military Expenditure (% of GDP),” http://data.worldbank.org/indicator/MS.MIL.XPND.GD.ZS(2015年2月25日閲覧)

[iv] Sean Clinton, 2014, “Israel’s “Blood Diamonds” Boost Jeweller Profits as Gaza Bleeds,” Global Research, Centre for Globalization, http://www.globalresearch.ca/israels-blood-diamonds-boost-jeweller-profits-as-gaza-bleeds/5390583(2015年2月25日閲覧)

[v] Kensington Communications, 2007, NHKドキュメンタリー「ダイヤモンド・ロード(後)富の分配を阻む厚い壁」及び「シエラレオネ・血塗られたダイヤモンド」