〜あなたが手にしたダイヤモンドが子どもによって採掘されたものだったら〜

あなたが手にしたその美しく輝くダイヤモンドのジュエリー。学校にいくことができず、強制的に働かされている子どもたちによって採掘されたダイヤモンドが使われているかもしれません。

児童労働とは?

児童労働とは「法律で定められた就業最低年齢を下回る年齢の児童(就業最低年齢は原則15歳、健康・安全・道徳を損なう恐れのある労働については18歳)によって行われる労働」のことです。
(国際労働機関ILOのウェブサイトより引用。http://www.ilo.org/tokyo/areas-of-work/child-labour/lang–ja/index.htm

お手伝いと児童労働は異なります。お手伝いは教育・健康・安全・道徳を損なわないもので、1日数時間以内でできる簡単な作業を指しています。学校に行かず日中働いたり、小さな子どもが深夜まで働くケース等が児童労働にあたります。

児童が労働する理由は、多くが家庭の貧困です。親が子どもを働かせるケース、家計を助けるため子どもが自ら労働するケース等があります。中には、お金を得るために親が子どもを売り、買った大人がその子どもを強制労働させていることもあります。

◆ 子どもが働かなければいけない世界 〜児童労働〜

ILO(国際労働機関)の2012年の統計によると、世界における5歳〜17歳の児童労働は約1億6800万人[i]でその割合は 子どもの全人口の11%に上ります。また、地域別でみると、児童労働の割合が最も高い地域は、サブサハラ・アフリカ地域(アフリカのうち北アフリカを除く地域)で、その割合は約21%です(5人に1人の子どもが働いていることになります)。

児童労働のうち、約半数は「最悪の形態の児童労働[ii]」が占めています。鉱山での労働は「最悪の形態の児童労働」の中の「危険有害労働(hazardous work)」に指定されています。鉱山における労働は有害な鉱山物質や危険重機との接触、土砂崩れや崖崩れ、溺死等の事故に巻き込まれる可能性が高く、子どもの成長にとって非常に有害で危険な労働であるとされています。

ダイヤモンド業界における児童の労働は主にアフリカ地域における1) ダイヤモンド鉱山、主にインドにおける2)ダイヤモンド研磨工場の2つに分かれます。

1)ダイヤモンド鉱山における児童労働
2014年の米国労働省の統計[iii]によると、アンゴラ共和国、シエラレオネ共和国、リベリア共和国、中央アフリカ共和国、コンゴ民主共和国、ギニア共和国の6カ国で強制労働・児童労働が行われていると報告されています。

ダイヤモンド鉱山での仕事は重労働です。大人に混じって50 kg~60kgの砂利を鉱山から選別場に運ぶ仕事や、選別場で泥さらいをしてその中から光る小さなダイヤモンド原石を探し続けます。子どもは体が小さいため、狭い穴でもロープを伝って入り採掘作業が可能であること、かつ安く雇うことができることから搾取されやすい対象となっています。ダイヤモンド鉱山では、無数の穴にたまった浅い水の中で作業をするため、マラリア蚊の発生源にもなっており、マラリアに罹患する率が高いほか、穴をどんどん深く掘っていくため、転倒して負傷したり、ダイヤモンドを巡って争いに巻き込まれ、殺される危険もあります。

10年間内戦が続いたシエラレオネでは、子どもは子ども兵及び鉱山労働者として働かされ、そこで稼いだ資金は反政府軍の資金源に使用されていました。

シエラレオネの内戦は2002年に終結し、「紛争ダイヤモンド原石」の流通を予防するために、「キンバリープロセス認証制度」が2003年に発効しましたが、その後もダイヤモンド鉱山における児童労働は引き続き日常的に行われており、ダイヤモンドを見つけた分に応じて支払われる成果報酬がある場合の日給は0.15~0.6米ドル(約15円から60円程度)、成果報酬がない契約であれば最大2.10米ドル(約210円)で、大人の鉱山労働者に支払われる金額よりも日常的に安い金額しか支払われていないとの調査報告もあります[iv]

ダイヤモンドと子ども_写真

シエラレオネのコノ県でダイヤモンド鉱山で働く子どもたち(出典:パブリックドメイン)

子どもたちがダイヤモンド鉱山につれてこられるケースは様々です。

両親や親戚が子どもをつれて自分たちの手伝いのために鉱山に連れてくるケース(この場合は、ダイヤモンドが見つかる確率をあげるためのものであり、全く子どもに対して賃金は支払われない)や、両親を失った孤児、極度の貧困のため、家族や親戚に売られて強制的に働かされているケースもあります。

このような状況のため、子どもたちの多くは満足な食事もとれず、飢えに苦しんでいます。

2)ダイヤモンド研磨工場での児童労働[v]

インドはダイヤモンドを含む宝石のカット・研磨の中心地で、特にグジャラート州は世界のダイヤモンドの85%(ダイヤモンド市場価値の57%)をカット・研磨しています。この産業が世界的に大きな飛躍を遂げた要因は「安い労働」です。ダイヤモンド産業は、カット〜研磨という作業行程において、高い労働集約的産業です。ダイヤモンドの価値を決める4C(カラット、カラー、クラリティ、カット)のうち、特にカットがその輝きと価値を決める重要な工程とされています。

カットの品質を高めるために、視力の良さと器用な手先が必要なことから、子どもがこの作業に非常に向いていると言われています。特に価格が安く小さなダイヤモンドがインドに輸入され、子どもたちによってカット・研磨され大きな利益をあげています。薄暗く、換気口もない狭い工場の中で働く子どもたちの多くは健康被害のリスクを負っており、研磨に使用される研磨剤は酸化クロムとダイヤモンドパウダーを混合したもので、長時間にわたり肌に直接触れると人体に非常に有害な影響をもたらします。

 

子どもたちの多くはその家族の家計を助けるために、学校にいく代わりに工場で働くよう強制されており、親や親戚の借金の肩代わりに「債務労働」として働かされているケースもあります。

ダイヤモンドの研磨作業を1日7~9時間行い、賃金は一ヶ月で30ドル程度とも報告されています[vi]

◆ ダイヤモンド業界における労働から子どもを守る法律はあるの?

児童労働は国際条約[vii]で禁止されて多くの国で批准されているとともに、ほとんどの国には児童労働を禁止する法律があります。日本をはじめとする多くの先進国には労働監査のシステムが存在し、法の執行を確保しています。

 

一方、多くの途上国では児童労働を禁止する法律が存在したとしても、機能していないケースが多いことから、この部分に対する取り組みが課題となっています。

※児童労働に関する個別の記事は、児童労働カテゴリーをご覧ください。

【注意】

当会がダイヤモンドにまつわる課題を啓発しているのは、課題を正しく認識することが解決への第一歩であると考えているからです。当会は天然ダイヤモンドの市場からの排除や消費者のみなさんにボイコット・購買拒否を呼びかけてはおりません。あくまでもこれらの課題の解決をめざして活動していますので、ご理解のほどお願いいたします。

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[i]Governance and Tripartism Department, 2013, “Making Progress against child labor Global estimates and trends 2000-2012,” International Labor Office (国際労働機関 (ILO)), http://www.ilo.org/wcmsp5/groups/public/—ed_norm/—ipec/documents/publication/wcms_221513.pdf(2015年3月28日閲覧)

[ii]「最悪の形態の児童労働」は①人身売買、徴兵を含む強制労働、債務労働等の奴隷労働②売春・ポルノ製造、わいせつな演技に使用、斡旋、提供③薬物の生産・取引等の不正な活動に使用、斡旋、提供④児童の健康、安全、道徳を害する恐れのある労働の4つに定められている。(国際労働機関(ILO)による)

[iii]List of Goods Produced by Child Labor or Forced Labor(米国労働省2014年) http://www.dol.gov/ilab/reports/pdf/TVPRA_Report2014.pdf  (2015年3月28日閲覧)

[iv]International Human Rights Clinic, 2009, “Digging in the Dirt,” International Human Rights Clinic at Harvard Law School, http://hrp.law.harvard.edu/wp-content/uploads/2014/07/Digging_In_The_DirtLR.pdf (2015年3月28日閲覧)

[v]Rumani Saikia Phikan, 2015, “Child Labour in Diamond Industry Continues in India Despite Abolition,” Maps of India, http://www.mapsofindia.com/my-india/government/child-labour-in-diamond-industry-in-india-it-will-continue-why(2015年3月28日閲覧)

Kanchan Mathur, Ruma Ghosh, and Pradeep Bhargava, “Child Labour In The Gem-Polishing Industry Of Jaipur In The Wake Of Legislation,” V.V.GIRI National Labour Institute NOIDA,
http://www.vvgnli.org/sites/default/files/publication_files/CL%20in%20Gem-polishing%20Industry%20of%20Jaipur.pdf(2015年3月28日閲覧)

[vi]“Child Slave Labor in India’s Diamond Industry” (2005年5月)
         http://ihscslnews.org/view_article.php?id=61(2015年3月28日閲覧)

[vii]「児童労働に関するILO条約」国際労働機関(ILO) http://www.ilo.org/tokyo/areas-of-work/WCMS_239915/lang–ja/index.htm(2015年3月28日閲覧)