国際貴金属宝飾品連盟(CIBJO)ウェビナー:ラボグロウンダイヤモンドについて

2021年11月4日、国際貴金属宝飾品連盟(CIBJO)によって開催されたラボグロウンダイヤモンドに関するウェビナーの要約を以下に紹介します。録画はYouTubeの以下のURLで視聴いただけます。

 

国際貴金属宝飾品連盟(CIBJO)のラボグロウンダイヤモンドに関する最新ガイドライン(CIBJO-LGD-Guidelines-2021.pdf)に基づく本ラボグロウンダイヤモンドウェビナーの登壇者

  • ウェスリー・ハント - CIBJOラボグロウンダイヤモンド委員会委員長
  • アンドリュー・ザルコフ - ウルトラシー(Ultra C)創業者
  • サラ・E・ヨード - 米国宝石商自警団(Jewellers Vigilance Committee:JVC)次席法務顧問
  • エダーン・ゴラン - エダーン・ゴラン・ダイアモンド・リサーチ&データ
  • (司会者)エドワード・ジョンソン - CIBJO宝飾品業界代弁者

(免責事項:以下に示す討論内容は情報の提供のみを目的としており、実際のガイドライン文書以外は公式なものではなく、法的にも経済的にも何ら拘束するものではありません)

概要

ラボグロウンダイヤモンドは、その大きさと手に入りやすさが増すにつれ、ダイヤモンドの主流市場へ参入を果たしました。これに従い、市場で受け入れられたラボグロウンダイヤモンドが消費者の信頼を保つために、業界が情報の全面開示を行い市場に明確なガイドラインを提供することの重要性が浮き彫りになりました。
2018年11月から2年間、国際貴金属宝飾品連盟(CIBJO)では作業部会と委員会を設立し、天然ダイヤモンドとラボグロウンダイヤモンド両方の専門家がお互いを尊重しながら共同で「生きた」文書(科学の進歩等に伴って刻々と変化する状況にあわせて随時更新する文書)を作成し、消費者にラボグロウンダイヤモンド市場の状況をよく知ってもらうために取り組んできました。ガイドラインが示す運用基準や原則は、完全かつ疑いようのない情報によって消費者の製品と業界に対する信頼を高めるように設計されているので、慎重に十分な情報を得たうえで意思決定ができるようになっています。この情報は、販売するダイヤモンドについて情報全面開示の責任を負う、サプライチェーンのあらゆる段階の業界関係者へのものでもあるのです。

ガイドラインには6つの主要項目があります。

  • ガイドラインの対象範囲
  • 基準となる重要参考文献
  • ラボグロウンダイヤモンドを説明する場合の原則
  • デュー・ディリジェンス(適正評価)と開示
  • 検出技術と過程
  • ラボグロウン製品仕様

まず重要なのは国際的に一貫性のある用語を使用することです。よって好ましい表現としては「ラボラトリーグロウン」ダイヤモンド(注記1)と規定されています。また、消費者の信頼維持のために不可欠なのは、天然とラボグロウンの石がどんなときも混在してはいけないということです。原石の時、研磨の時、また台座に宝石として取り付けられた時も、別々に保管され、処理され、販売されなければなりません。天然ダイヤモンドとラボグロウンダイヤモンド、そしてその宝飾品を取り扱う親会社は、消費者に少しでも曖昧さを感じさせないように、これらを区別し別々のブランドで扱うのが良いでしょう。

販売・マーケティング時の説明や謳い文句、特にサステナビリティ(持続可能性)に関するものは、根拠を明確にして行う必要があります。「ラボグロウンダイヤモンドと天然ダイヤモンドの販売者は、製品自体が環境または生態系に大きなプラスの影響を与えることを示さない限り、自社製品が「環境にやさしい」、「エコ」といった根拠のない説明をしてはいけません。環境または生態系への影響に関する説明(例えばブランドの、もしくは卸売企業・小売企業による営業時の説明やメッセージ)は、特にカーボンニュートラル(工程における温室効果ガス排出量がプラスマイナスしてゼロ)に関する説明の場合、信頼できる独立した第三者によって実証され、検証された内容を用いなければいけません。」

最も議論が盛り上がったのは、製品の仕様と報告についてでした。ラボグロウンダイヤモンドは製造品なので、天然ダイヤモンドとは区別されるべきであり、用語も「グレーディング」ではなく「製品仕様」を使い、ダイヤモンドレポートも天然ダイヤモンド用のレポートとは別の特定様式を使うべきとしました。「ラボグロウンダイヤモンドの製品仕様は、その物理的特性、製造過程、その後の処理、そして製造企業に関する重要な情報を記したものです」。この様式には、レポート番号の前にラボグロウンを示す文字「LG」を付け足すことや、レイアウトやグラフィックスなどが異なる別の様式とし、さらに各ページのヘッダーと表紙に「ラボグロウンダイヤモンド」を明記すること、などが記載されています。

質疑応答

米国市場で必要な情報開示は何ですか?
米国のダイヤモンド業界全体のマーケティングを統括している連邦取引委員会(FTC)のジュエリーガイドによると、「ダイヤモンド」といえば「天然ダイヤモンド」を指します(修飾語は不要)。その他のダイヤモンドについては「ラボグロウン」、「ラボ作成」、「何々ラボ作成」といった用語を使わなければいけません。以前使用されていた「合成」という言葉は2018年に削除されており、混乱を招くので使用しない方がいいでしょう(使用禁止というわけではなく、「ラボグロウン」に相当する用語のない外国語を訳す際に使うことはあります)。模造ダイヤモンド(例えばキュービックジルコニア/CZ)とラボグロウンダイヤモンドを区別することは特に重要です。また「培養(cultured)」という言葉は、例えば「培養ラボグロウンダイヤモンド」のように組み合わせた完全な形でのみ使用することができます。

他に国際的に利用できるガイドラインはありますか?
責任ある宝飾品業のための協議会(RJC)が最近発表したところによると、ISO規格に基づいたラボグロウン素材基準を策定中であり、2022年に公表するとのことです。
SCSグローバルサービスもサステナビリティ(持続可能性)に関するガイドラインを公表したばかりです。

Microsoft Word – SCS_STD_007_TrialUse_June_28_2021_C.docx (scsglobalservices.com)

天然とラボグロウンの宝石のどちらかを選ぶにあたり、米国において消費者から挙がっている主な懸念事項は何ですか?
米国ではラボグロウン製品に対する関心が高まっており、ダイヤモンド市場の2.5%から2021年1月以降はかなり堅調に5%を占めるまでに力強い成長を見せています。ラボグロウンダイヤモンドは今のところほぼ米国市場むけの製品であり、主に専門の宝石商にて販売されています。調査によれば、バレンタイン、母の日、結婚時など愛に関わるショッピングをする時、以前の主流は天然ダイヤモンドでした。しかし最近はラボグロウンダイヤモンドが増加し、ブライダルギフトにも使われており、一般的に永遠の象徴としてダイヤモンドへの関心の強まりを示しています。米国市場は価格に敏感であり、調査によると、予算が決まっている買い手は元々の予算内でより大きなラボグロウンストーンを選ぶより、同じカラット(重さ)、クラリティ(透明度)、カラー(色)を考慮し、ラボグロウンストーンの中でもより安価な製品を選ぶようです。

ラボグロウンダイヤモンドの販売における成功事例は何ですか?
消費者は、選択に際し小売業者が誠実で率直であることを何より望んでおり、見せてもらう宝石が天然なのかラボグロウンなのかを初めから決めています。小売企業は、どちらの宝石にも当てはまる明確なセールスポイント、つまり両方とも本物であり異なる価値を持っているということを理解すべきで、これを踏まえて営業する小売業者こそ最も成功していると言えます(販売に際しこの考えで取り組まない小売業者は成功しません。なぜなら小売業者がより低価格のラボグロウンダイヤモンドを天然ダイヤモンドの第2選択肢として扱うと、消費者は否定的な反応を示してしまうからです)。

透明性に関する具体的な規制はすでにありますか?
ラボグロウンダイヤモンドは宝飾品として入手可能になってからたった5年であり、市場はまだ成熟していません。天然ダイヤモンドには、責任ある宝飾品業のための協議会(RJC)やキンバリープロセス認証制度があります。ラボグロウンダイヤモンドにとってもこの透明性確保の課題は重要であり、消費者だけでなく銀行や投資家の信頼を得るためにもインターナショナルグロウンダイヤモンド協会(IGDA)が取り組むべきでしょう。

サステナビリティ(持続可能性)の問題についてはどうでしょうか?
今のところ消費者は持続可能な方法で購入を望んでいると言っていますが、実際にはすべて価格の問題に落ち着きます。そのため持続可能な選択に付ける値札は最低限に抑えられるよう、手を打たなければいけません。消費者にとって、持続可能性に関する説明や売り文句はすべて第三者による根拠に裏打ちされていることが大切です。そこで重要になってくるのが特定の認証と独立した監査です。デビアス社(De Beers)や他の天然ダイヤモンドの生産者は近年、天然ダイヤモンド分野における持続可能な施策の実践に重点を置いたマーケティングに多額の投資を投入しています。ラボグロウンダイヤモンドの生産者も自分たちの製品が環境に有害な爪痕を残していないと証明することが求められるでしょう。

現在の価格の状況はどうでしょうか?
価格の状況は大きく変化しています。元々の市場開拓戦略はラパポートシステムとの対比に基づいていましたが、これは理にかなっていません。というのも天然ダイヤモンドと100%同じ構造のラボグロウンダイヤモンドに2倍から3倍低い販売価格が設定されていたのです。この12ヵ月で、このシステムは価格の暴落(90~92%の下落)を生み、インドでは研磨済の石が売れずに在庫の山となってしまいました。2021年5月・6月から天然ダイヤモンドの価格と流通は持ち直してきています。しかしこれは石の大きさ次第であり、1 mm~3 mmの小さな石に関していえば、ラボグロウン分野の価格はここ6~8ヵ月の間上がってきています。
付け加えて開示の観点の話ですが、HPHT(高温高圧法)ダイヤモンドはCVD(化学気相蒸着法)よりも安価に製造できるため、小売業者はHPHT(高温高圧)を好んで買います。しかし消費者はまずそのようなことは知りませんし、店頭価格に差もありません(つまり、消費者に対する価格は下がっていても、小売業者に対する価格と同じ割合で下がっているわけではないということです)。

ファンシーカラーダイヤモンドはどうですか?
難しい質問です。というのもラボグロウンダイヤモンドと天然ダイヤモンドでは価格や希少性が全く違うからです。4C(カラット(重さ)、カラー(色)、クラリティ(透明度)、カットの4つの基準)の説明に加え頭に「LG」を付けることで製造された石であることをはっきりさせ、完全な開示を行うことがやはり推奨されます。

ラボグロウン宝石の再販市場はありますか?
米国には再販市場に参入し始めている専門店があります。ここでもやはり重要になってくるのは完全な情報の開示です。なぜなら顧客が店に「ラボグロウン」ダイヤモンドだと信じて売りにきたものが、実際は模造ダイヤモンドであるといった問題があるからです。

ラボグロウンダイヤモンドの処理はどのように開示するのですか?
ラボグロウンダイヤモンドは製造品ですから、処理は単なる一つの工程段階にすぎませんが、それでもブランドの確立やマーケティングの問題につながる恐れがあります。ライトボックス(Lightbox)(デビアス社のラボグロウンダイヤモンド専用ブランド)は最近、自社の宝石の製造後処理方法を公表すると発表しましたが、それでも公表するかどうかは任意(注:製品によって公表する場合としない場合がある)としています。Diamonds.net – Lightbox Now Declaring Post-Growth Treatments.

 

注記1)英語では「ラボラトリーグロウン」の呼び方が好ましいとされていますが、日本語ではラボラトリーグロウンの短縮語である「ラボグロウン」が一般的に使用されていますので、本記事でも「ラボグロウン」を使用しています。

ダイヤモンド・フォー・ピースが本記事の基となる英文記事を作成し、国際貴金属宝飾品連盟(CIBJO)の許可を得て日本語訳を行い本記事を公開しました。

冒頭画像:国際貴金属宝飾品連盟(CIBJO)2021年年次総会イメージ画像