責任あるダイヤモンド採掘の基礎ワークショップ

ワークショップの様子

2022年12月11日から15日にかけての5日間、ダイヤモンド・フォー・ピース(DFP)は米国から採掘専門家ケーレン・ブーランド氏を招き、責任あるダイヤモンド採掘の基礎に関するワークショップをウィズア村で開催しました。このワークショップの目的は、効率的な採掘のための簡単な探査や、より多くのダイヤモンドを採掘するための効果的な選鉱方法を、採掘者たちが現場で理解できるようになることです。また、このワークショップでは、採掘者が採掘のために土を掘り起こし、その土地を埋め戻さないことによって環境に与えている問題への意識を高め、鉱山を埋め戻すことの重要性も強調されました。

ワークショップの内容

このワークショップの内容は、通常のダイヤモンド採掘のライフサイクル、すなわち、探査、試掘、採掘、選鉱、そして閉山に至るまでの基礎を中心としました。ダイヤモンド採掘の各段階が何を指すのか、また、環境に大きな被害を与えず、より多くのダイヤモンドを効率的に見つけるためにライフサイクルの各段階でどのような技術が必要であるかについて、採掘専門家が指導を行いました。また、ガーネット、水晶、コランダムなど鉱山で見つかる他の石の価値についても指導しました。

探査

採掘者たちは、鉱山開発前にその地域でダイヤモンドが見つかるかどうかを判断するのが「探査」であり、ダイヤモンドを探すべきおおまかな場所を知るには、ダイヤモンドが集積する過程を考える必要があることを学びました。ダイヤモンドは、川の流れや土壌の浸食によって、岩や石同士がぶつかり合い、石が粉々になりながらその間にダイヤモンドも集まり堆積します。この知識により、採掘者たちは、特に水の流れが速く、岩がぶつかり合うような場所の川底にダイヤモンドが沈む可能性が高いことを理解しました。

試掘

これまで採掘者たちは、ダイヤモンドを見つけるのにどこを掘ったらいいのかわからないので手当たり次第に掘っていました。しかし、多くの場所を掘っている割にはあまりダイヤモンドが見つかっていませんでした。このことから、試掘とは「どこを掘ればダイヤモンドが見つかるか」を的確に判断するための過程であることを、採掘専門家は指導しました。ダイヤモンドが自然に堆積する過程や、ダイヤモンドと一緒に堆積する石(標石)をよく理解すれば、その知識をもとに掘るべき場所を知ることができます。試掘の際にきちんとした分析を行うことで、より多くのダイヤモンドを効果的かつ効率的に見つけるための判断ができるようになります。そうすると採掘者たちが手当たり次第に掘ることがなくなるため、掘る穴の数が減り、採掘コストが削減され、環境に与える影響度を下げることにもつながるのです。

採掘

採掘専門家は、土の掘り方について採掘者たちが普段からやっている方法で問題がないと考え、これについては特別な指導は行いませんでした。

選鉱

採掘者たちが行っていた選鉱方法(採掘した砂利からダイヤモンドを探す作業)について採掘専門家がワークショップ前に確認したところ、多くのダイヤモンドを失うような効果的でない方法であることに気づきました。ワークショップ以前は、砂利をジグと呼ばれるザルのような道具に通す際、採掘者たちはジグの上部にくる石を自動的に取り除いて捨てるだけで、その石の中にダイヤモンドがあるかどうかを注意深く確認することはありませんでした。ダイヤモンドは石よりはるかに重く、かつ滑りやすいのでジグの底に集まると採掘者たちは長年信じており、上部の石を捨てることが習慣になっていたのです。そこで専門家は、砂利をジグに通す際、石を大きさ毎に分類するよう指導しました。分類することで、ダイヤモンドの大きさに近い石を中心に、ダイヤモンドの有無の確認やコランダムといった貴重な鉱物の回収確率を高めることができるからです。そのために、通常のジグよりも少し大きな穴のあいたジグを導入しました。このジグは、砂利の分類時に通常のジグのすぐ上に置くことができ、簡単に使うことができます。穴の少し大きいジグが最終的な石の分類に役立つので、このジグの上に集まった石の中から大きなダイヤモンドを見つける可能性が高まります。

閉山

採掘者たちのほとんどは、ダイヤモンドを掘り尽くした後の適切な閉山を実施したことがありません。彼らにとって、採掘のライフサイクルは、探査から採掘までであり、閉山(埋め戻し)には興味がなかったのです。しかしワークショップを通じて、自分たちは地球から大地(鉱山)を借りているため、掘る前の状態に戻さなければならないことを理解しました。採掘した穴を埋め戻して元の状態に戻すことが重要であり、そうしないと土地が荒廃し、農業ができなくなることを学びました。また、水が染み出してできた人工池が残り、マラリアを媒介する蚊などの繁殖地にもなっています。動物や人間が落ちておぼれる可能性もあります。閉山については、表土を掘るときに他の土と区別して保存しておき、埋め立てるとき表土を一番上に戻すことが重要であると学びました。なぜなら、表土には植物の生育に必要な有機物が含まれているからです。

ウィズア村での採掘の現状

ワークショップ以前、採掘者たちはどこを掘ればよいかわからない状態でダイヤモンドを探していました。そのため、ダイヤモンドをどのように採掘すべきかを知らないまま、手当たり次第に掘って地表を傷つけていたのです。また、コランダムがある場所にダイヤモンドがあると信じてコランダムを探していました。しかし、本当の標石は現地で「マンバ・ロック」と呼ばれる角が削られ丸くなった大きなクオーツ(石英)の石であることを今回のワークショップで学びました。

参加者の声

アリウ

このワークショップでは、今まで知らなかったダイヤモンドの真実をたくさん知ることができたので、とても有意義でした。ダイヤモンドは疎水性(水をはじく性質)であること、ダイヤモンドは同じ大きさの石より重くないこと、ダイヤモンドは磁石に反応しないこと、ダイヤモンドを見つけるために探すべき本当の標石は、長年思っていたコランダムではなく、大きな石英の石であることを初めて知りました。

ワークショップの後、私は以下のことを実践しています。

– 一緒に作業している採掘者に正しい知識と指示を与えます。
– 採掘者は私の指示に従い、選鉱時に誤ってダイヤモンドを捨てないよう、細心の注意を払っています。
– ワークショップで採掘専門家が紹介した新しいジグを使い始めました。まだ、ダイヤモンドは見つかっていませんが、近いうちに見つかると思います。

ビクトリア

ダイヤモンド鉱山がウィズア村で初めて見つかった時から、私たちの両親の世代はコランダムがダイヤモンドと一緒に移動する標石であるという考えを持っていました。彼らは、ダイヤモンドは火山から産出され、火山活動により地表近くに押し上げられることを知らなかったので、コランダムをダイヤモンドの標石と信じていました。しかし、今日、私はマンバ・ロックこそがダイヤモンドの標石と呼ぶべきものだと知りました。なぜなら、マンバ・ロックは川や小川の中でダイヤモンドと一緒になり、互いにぶつかり合い、多くのダイヤモンドが見つかる場所に堆積するからです。

ダイヤモンドは石より重く下に沈むため、選鉱のときは毎回、上の方の砂利は不要だと考えてきました。しかし、今回のワークショップでは、砂利を石の大きさ毎に3回にわたり選鉱する方法を教わりました。また、石とダイヤモンドの密度が同じであることも知りました。それを知らなかったので、今までずっと上の方の砂利は捨てていました。その中にあった大きなダイヤモンドも捨てていたかもしれません。

私たちが使っているジグには磁石がついている、そしてダイヤモンドは磁石にくっつくと信じていました。しかし、ダイヤモンドは磁石に反応しないことをワークショップで学びました。このような知識を伝えてくれて本当に感謝しています。

参加者たち
ワークショップ最終日の参加者(組合員)、採掘専門家及びDFPスタッフ(DFP撮影)

コラム:リベリアのダイヤモンド採掘にまつわる迷信

リベリアのダイヤモンド採掘者たちは、ダイヤモンド採掘について、科学とは相反する次のような迷信を信じています。採掘者たちは、何世代にもわたってダイヤモンド採掘に従事する中で、こうした迷信を信じて生きてきたため、ワークショップで教えられた科学的事実を当初は容易に受け入れることができませんでした。主な迷信をここで紹介します。

ジーナが地中のダイヤモンドを支配する

採掘者たちは、ジーナという女性の悪魔がダイヤモンドを産み出し、地中に埋めていると信じています。ジーナにお供えをすることで、採掘者はより多くのダイヤモンドを見つけることができると考えられています。参加者の一人が専門家に「ジーナにお供えをする必要はありますか?鶏肉をお供えするため、私は自分の分の鶏肉を食べられないのです」という質問をしたほどです。

ジーナは他の女性を嫌うと信じられています。リベリアのグランド・ケープ・マウント州では、ジーナが嫉妬して怒るという理由で、採掘権を持っていても女性はダイヤモンドの採掘場に入ることが許されない地域があります。DFPが活動するバポル州ウィズア村では、そのような決まりはありません。

ダイヤモンドは石より重い

ダイヤモンドは同じ大きさの石よりも重いと信じられています。したがって、ダイヤモンドは選鉱時に必ずジグの底に集まると考えられています。しかし、ダイヤモンドと石はほぼ同じ密度であり、同じ大きさであれば、ほぼ同じ重さであることが科学的に証明されています。

ワークショップでは採掘専門家が0.16カラットの本物のダイヤモンドと、それと同じ大きさの石を秤にかけ、重さを測定するデモンストレーションを行いました。これは、参加者全員が実際に量ってみる公開練習となりました。石とダイヤモンドが同じ重さであることを信じられない参加者は全員、自分で実験してみました。最後にようやく全員が「これは本当だ」と信じるに至りました。

ダイヤモンドは水を好み、石より滑りやすい

ダイヤモンドは水を好み、石よりも滑りやすいと信じられています。したがって、ダイヤモンドは選鉱時に必ずジグの底に集まると考えられています。しかしワークショップでは、そのような科学的事実はないことを学びました。また、ダイヤモンドは疎水性であり、ダイヤモンドは水を好むと信じられていたことは誤りであることも学びました。

ダイヤモンドとジグは磁石に反応する

ダイヤモンドがジグの底に集まるもう一つの理由は、ダイヤモンドとジグに磁力があり、互いに引き合っているからだと採掘者たちは信じています。しかし、ワークショップでダイヤモンドとジグにそれぞれ磁石を付ける実験を行った結果、ダイヤモンドもジグも磁石にくっつかないことが証明されました。

ダイヤモンドには超自然的な力がある

ダイヤモンドには超自然的な力があり、行きたいところへ動くことができると採掘者たちは信じています。しかしワークショップでは、ダイヤモンドはただの鉱物であり、生命がないため自ら動いてどこかに行くような力はまったくないことを学びました。

【ウィズア村で発見された最大のダイヤモンド】

女悪魔ジーナを除くこれらの迷信から、採掘者たちはダイヤモンドを探す時はジグの底だけを注意深く確認すればよいと信じ、大きな石が集まる砂利の表面を確認することなく捨てていました。

ワークショップの参加者によると、ウィズア村で見つかった最大のダイヤモンドは200カラット以上あったそうです。しかし、採掘者たちはそれに気づかず、同じような大きさの石と一緒にそのダイヤモンドを捨ててしまったのです。その後、たまたまそこを歩いた幸運な人が見つけて、自分のものにしたそうです。

実験の様子
参加者がダイヤモンドと同じ大きさの石を量り実験する様子(DFP撮影)

まとめ

参加者たちは、自分たちが効果的な選鉱方法をとっていないことに気づき、大きなダイヤモンドを捨ててきた事実を知りショックを受けました。今回ワークショップで学んだ効果的かつ効率的なダイヤモンド採掘の手法を習得するには時間がかかりますが、DFPはこれからもウィズア村の採掘者たちに知識と技術を学ぶ機会を提供し、責任あるダイヤモンド採掘を行うための支援を行っていく予定です。採掘専門家は今年(2023年)5月にリベリアを再訪し、彼らの実践状況を確認しさらなる研修を行う予定です。

本ワークショップは、地球環境基金の助成およびDFP法人会員、寄付会員からの寄付によって実施しました。ご支援に感謝申し上げます。

 

冒頭写真:採掘専門家が新しいジグを紹介し、彼らの鉱山でより多くのダイヤモンドを見つけるための効果的な使い方を伝授している様子(2022年DFP撮影)