ラボグロウンダイヤモンドは採掘作業なしで製造されるわけではない

【2023年2月8日 ロブ・ベイツ(JCKオンライン)】

本年、連邦取引委員会(米国)は、企業が販売する製品が環境に配慮していることを示す表示規制を定めた「グリーン・ガイド」の改定に取り組むことになっています。

米国宝石商自警団(JVC)は、グリーン・ガイドがどのように宝飾品について定めるべきか、業界に意見を求めています(米国宝石商自警団の提言はこちら)。

連邦取引委員会にぜひ考慮していただきたい内容を以下に記しました。一見比較的小さい問題に見えますが、複雑でもどかしい問題です。

「採掘フリー(DFP編集部注:原文ではマイニング・フリー。採掘なし)」、「採掘しないで作られた」、「無採掘」などの言葉を、連邦取引委員会は禁止すべきです。禁止とまではいかなくても、少なくともこれらの言葉の定義を厳しく狭めて定めるべきと考えます。このような表現は、ラボグロウンダイヤモンドの説明に頻繁に使われています。例を挙げますと、きりがありません。ここにも、ここにも、ここにも、ここにも、そしてここにも。

連邦取引員会のグリーン・ガイドでは、2つの大きな基準を設けていると、私は理解しています。第一に、当然ですが企業が伝える内容が真実でなければいけないということです。第二に、製品の本質を明確に伝える必要があるということです。

例えば「地上のダイヤモンド」という言葉は、技術的には正確ではありますが、連邦取引員会の弁護士は、ダイヤモンドがラボグロウンダイヤモンドであるということを適切に伝えていないと主張しています(実際、天然ダイヤモンドでも地上で見つかるものがあります)。

「採掘フリー」などの表現は、2つ目の基準を満たしていません。もちろん、ラボグロウンダイヤモンドであるということは明確に伝えています。問題は、ラボグロウンダイヤモンドは、採掘「フリー」では「ない」ということです。

「採掘フリー」と聞くと、ダイヤモンドの製造過程において、採掘作業が一切含まれていないことを想像します。しかし、この世の中で100%採掘なしと考えられる商品は、存在しません。私が今この記事を執筆するのに使っているiMACもそうです。環境技術を駆使した商品を製造するにも、何らかの形で採掘された原料が必要となるのです。採掘という言葉に対して、読者の皆さんがどのような印象を持たれていたとしても(肯定的否定的両面を持つ言葉です)、採掘作業が何らかの形で関与して出来上がった製品は私たちの身の回りにたくさんあります。つまり、採掘作業の過程がなければ多くの商品は生まれないのです。

ラボグロウンダイヤモンドのうち、高温高圧法で作られるものには、黒鉛が必要です。化学気相堆積法(DFP編集部注:原料ガスを供給し、エネルギーを与えて化学反応により薄膜を堆積する成膜方法)を用いて作られるラボグロウンダイヤモンドは、高純度のメタンと水素が必要となります。メタンは、一般的に、ガス・石油・石炭の採掘や、油井採掘から作られます。

「メタンは、主に土中から発生します。」と、ラボグロウンダイヤモンドの製造会社であるブリングダイアモンド・ドットコムの創立者、デイビッド・ハーディ氏は説明しています。「黒鉛もそうです。そして、使用している機械装置も金属であり、金属も空中からは当然生まれません。」

アイテールダイヤモンド社は、空気中の二酸化炭素をメタンに変え、ラボグロウンの宝石を製造しています。同社の共同創立者兼主席錬金術者であるライアン・シアマン氏は、「責任を持って(DFP編集部注:環境への影響なしで)、メタンを調達できる確実な方法はありません。原油生産からか、フラッキング(DFP編集部注:水圧で岩を破砕する工程のこと)で調達しています」と断言しています。

シアマン氏によると、メタン製造において、畜産動物などのバイオ由来のものを利用する新手法が研究開発されていますが、安定した確固たるサプライチェーンを築き上げるほどには至っていないとのことです。

ラボグロウンダイヤモンドの情報は、ネット上に膨大にありますが、これらの問題についてはほとんど記載がありません。パンドラ社は、その数少ない会社の一つで、この問題をラボグロウンダイヤモンドのサステナビリティ報告書に記載しています(PDFファイルのみで開示されており、ここからダウンロード可能です。)。

「原料調達の過程において、(ラボグロウンダイヤモンドの)社会・環境に及ぼす影響は、高純度のメタン及び水素生産に必要な、石炭・天然ガスなどの原料抽出に関連しています。天然ガスや石炭の抽出自体が、社会・環境への影響を大きく左右するのです。

高純度メタンガスは、液化天然ガスから作られると考えており、したがって原料調達はまず、天然ガスの抽出が第一段階となります。

ヨーロッパにおいては、一般的に、水蒸気メタン改質法を用いて天然ガスからメタンを作ります。一方、世界最大の水素生産国である中国では、無煙炭を用いた石炭ガス化法により、メタンを生成します。」

このような物質の使用量は多いのでしょうか。ラボグロウンダイヤモンドを製造するブリングダイアモンド・ドットコム社のハーディ氏は、それを否定しています。

「使われているのは非常に少量で、(膨大な)使用電気量とは比較にならないくらい微々たる問題です。」

パンドラ社の報告書(念のため付言しますと、これは同社が費用を払って作成した報告書であるという前提を忘れてはなりません。)においては、これらの原料を生み出すために必要な温室効果ガス排出は、「完全になくすことはできないが、カーボンオフセット(DFP編集部注:排出された二酸化炭素などの温室効果ガスを、植林・森林保護・排出権購入による削減活動によって他の場所で直接的、間接的に吸収しようとする活動の総称)の枠組みに投資することで、相殺することができる」とあります。また、「化学気相堆積法により製造されるラボグロウンダイヤモンドがもたらす可能性のあるリスクは、産出される天然ガス(高純度メタン・水素に至るまで)の業界のシェアが僅少であるため、非常に小さい」と述べています。

私は、ラボグロウンダイヤモンドと天然ダイヤモンドの間のエコ論争に巻き込まれるつもりはありません。ほとんどの製造会社が各々の技術を独占所有しており、明確な数字を公表していないため、結局のところ、これらの原料がどれだけ使われているか、という点は非常に不明瞭です。重要な点は、「採掘フリー」という専門用語の定義についてなのです。

特定の量なのか否かに拘わらず、採掘された原料は、ほぼ確実にすべてのラボグロウンダイヤモンド製造過程において、「実際に」使われていることは事実です。これらの原石が「採掘フリー」であり、製造過程において採掘が「ゼロ」であると言及することは、真実ではありません。わずかな例外は除いて、明日にでも採掘作業というものが全く無くなった場合には、ラボグロウンダイヤモンドも無くなります。しかし、大手有名メディアのポピュラー・サイエンスでさえも、ラボグロウンダイヤモンドの製造過程には「採掘作業が全くない」と、オウムのように主張し続けているのです。

より明確にするために、一般的に「採掘なし」と表現するのではなく、「採掘されていない」ラボグロウンダイヤモンド、又は「ダイヤモンドの採掘なし」と表現するべきと、頭では考えてしまいがちですが、これも真実とはかけ離れた安直な方法です。これは、用語表現を変えればすむ問題ではないのです。

ダイヤモンド製造会社は、ラボグロウンダイヤモンドがどのように製造されるか理解しています。消費者の大多数が知らないでしょうが、ダイヤモンド製造会社は、製造過程でメタンを使用していること、そしてそのメタンがどこからできるかも知っています。しかし、「採掘フリー」「ゼロ採掘」でダイヤモンドが製造された、と主張している企業がまだあるのです。

これは言葉の選択、ということで済まされる問題ではありません。世間を誤認させる専門用語の問題なのです。だからこそ、この問題は看過されるべきものではありません。

「多くの物が採掘フリーの分類には入らないと思っています。」ハーディ氏は、さらにこう続けています。「この問題を解決する特効薬(DFP編集部注:英語では「銀の弾丸」との比喩表現を使用)なんて存在しないのです。」

 

ちなみに、私から最後に言わせていただくと、その銀も「地中」から生まれています。

 

※本記事は、「JCKオンライン」ホームページに掲載されたものを、許諾を得た上でDFPにて翻訳したものです。

原文: No, Lab-Grown Diamonds Are Not “Mining-Free” – JCK (jckonline.com) (2023年5月18日閲覧)

 

冒頭写真:石油やガスが、メタン排出の主な原因となっているイメージ写真(フリー素材)