はじめに
ウィズア村はリベリア北西部バポル州の手掘りダイヤモンド採掘村です。バポル州はリベリアの15州の一つで、この地域の主要な収入源は手掘りダイヤモンド採掘業です。リベリア国内の他の農村地域とは異なり、住民はさまざまな部族で構成されています。ここの住民は、リベリア国内各地から来た人たちや、ギニア、シエラレオネ、コートジボワールなど近隣諸国から移住してきた人たちなのです。このような人たちはこの村に存在するダイヤモンドを目当てに移住してきました。
この村の自治は次のような構成となっています。ウィズア村は小さな村々に分かれていることから、総村長1名と小さな村々の村長が置かれ、村長は総村長の補佐役とされています。若年層を代表する青少年リーダー、女性を代表する女性リーダー、年長者委員会が置かれ、各部族はそれぞれ部族長が統治します。地域基盤の組織として組合、採掘労働者グループ、衛生推進委員会などもあります。こうしたさまざまなリーダーシップ構造は村の平穏を推進し、発展を促進するために構築されたものです。この村はおおむね平和であり、自治システムが整備されていますが、発展は非常に遅れています。長年にわたり、この村には多くのリーダーシップに関する課題が見られました。
2018年以降、私たちが見てきた中で判明したことは、この村の発展の遅れの一因は、リーダー層の多くがリーダーの役割をよく理解しておらず、中にはリーダーになるとはどういう意味かを知らずにリーダーになっている人もいたことです。多くが自身のリーダーシップについて分からず、グループをうまく率いることは困難だと感じていました。中には、自分の地位の役割を理解しておらず、リーダーとして適切に対応できていなかったと認める人もいました。多くのリーダーは責任能力も欠けており、このことが、村と地域基盤の組織が統治に当たる上で大きな障害となってきました。その結果、彼らは途方に暮れ、任務の目的を満たすことができず、村の発展は滞っています。
この村が抱えるリーダーシップの問題を受けて、ダイヤモンド・フォー・ピース(DFP)はリーダーシップ研修内容を策定及び実施し、村のリーダーたちが、リーダーを務めるというのはどういうことか、個々のリーダーの役割とは何か、リーダーシップをどのように発揮すれば村を発展させていけるのか、などについて理解できるよう、彼らの知識を高める支援を行いました。2023年7月29日と31日の2日間で実施したリーダーシップ研修には、村の複数のグループから36名の参加がありました。このうち29名が研修修了証を得る基準を満たし、DFPから修了証を得ました。DFPのリベリア職員が研修講師となり、進行を担当しました。
リーダーシップ研修の参加者
リーダーシップ研修の対象者は、村のリーダー層です。これには組合、採掘労働者グループ、女性グループ、衛生推進委員会のリーダー、部族グループなどの村のリーダーが含まれます。これらのグループを対象にしたのは、村全体としてのリーダーシップのあり方がこのリーダーたちにかかっているためです。
リーダーシップ研修の内容
DFPは長年にわたり、村のリーダーシップのあり方に乖離があることを見てきました。これを踏まえて企画された研修の目的は、参加者であるリーダーたちが、リーダーの任務の重みと限度や、リーダーの役割を理解できるよう、また、村内部でうまく物事を進めるために自らの役割を活用できるよう、手助けすることでした。研修の中で話し合われた内容を以下に簡単にまとめました。
➢ リーダーシップとは他者に影響を与えて動かし、共通の目標や理念の達成へと導く能力のことです。参加者たちは、良いリーダーとはチームのメンバーを鼓舞して、やる気を起こさせ、効果的に意思疎通をはかり、自らの行動への責任を負える者であることを理解しました。
➢ どんなグループでも、共通の利害を持つグループでは、全員に利益をもたらす形でメンバーを方向付けし、統率するリーダーが必要になります。リーダーは、メンバーの意欲を高めて維持し、確実にチームが発展・運営計画に沿って進むようにする能力が必要になります。参加者たちは、リーダーの地位を任される理由とは単に事を進めるためなのだ、ただし、リーダーの地位にある者が事を進められないとしたら、真のリーダーではないのだ、ということを理解しました。
➢ 参加者たちは、良いリーダーとは無私の者であり、メンバーを鼓舞する者であることを学びました。良いリーダーとは良い手本を示し、明確な構想を持てる者であり、明瞭な意思疎通が取れ、誠実な者であることを学びました。
リーダーシップ研修に対する参加者の反応
参加したリーダーたちは研修にとても興味を持ち、一連の研修に積極的に参加しました。研修を喜んでおり、時期的に適切なタイミングだと評価し、直面する多くのリーダーシップの問題に鑑みて重要な内容だと評価しました。2日間の研修で、彼らは積極的に参加していました。これは彼らの言動に見てとることができました(率直に質問する、講師から出た質問に答える、討議に参加する)。
2日間のリーダーシップ研修を通じて、参加したリーダーたちは自身の弱点に気づき、チームを成功に導く上でリーダーに備わっていなければならない多くの資質を意識してこなかったと、はっきり認めました。参加者たちは、研修で習得した知識を活用してチームと村に有意義な貢献をすることを約束しました。個々のリーダーたちが見せた参加の度合いや、自らの弱点への率直な認識を踏まえると、研修から得た大切な情報を各々の持ち場へ持ち帰ってくれたものと確信しています。私たちは、彼らが習得したリーダーシップの知識を活用し、村の発展の助けになることを期待しています。
行動計画の作成
習得した知識が確実に村とその住民にとっての恩恵となるよう、リーダーたちに行動計画を作成してもらいました。
- 総村長:私は、全ての長が必ず一つにまとまり、村の改善に向けて皆で協力できるよう、任務に当たっていきます。
- 部族長:私は、発展の目標に向けて行動するときには、必ず事前にチームのメンバーに相談します。
- 組合:私たちは、チームとの間に心からの関係を築き、維持していきます。これは情報の共有、意識の向上、計画事項の実行に関わるためです。これに加えて、私たちは、チームの夢の実現に向けて、メンバーの意見と信念を尊重することを約束します。
以上は行動計画というより方針のようなものです。ただし、彼らがまだはじめの一歩を踏み出したばかりであることをご理解ください。私たちは、彼らの行動を引き続き見守り、必要に応じて具体的な行動計画の作成を支援していきます。
参加者の感想
バーニー(部族長の秘書)
私は、DFPがこれほど重要な研修を紹介してくれてとてもワクワクし、感謝しています。研修から教わったのは、リーダーは、方針に関して、断固とした決断のできる者でなければならないことでした。リーダーは交友関係を理由に方針に反してはいけませんが、そうしたことがこの村では数え切れないくらい起きるのを見てきました。リーダーである私たちが、村の利害や自分のグループの利害に関連して、必要なときには断固たる決断をする、そんな時が来たのだと思っています。リーダーはメンバーたちに責任を負える者でなければなりません。責任が信頼感を与え、チームを強くします。また、課題を成し遂げるために、リーダーはチームのメンバーと明瞭に意思疎通をとれる能力が必要です。以上が、この研修で学んだとても大切なことです。
ベンドゥ(女性グループのリーダー)
この研修を受けてみてとても気分が良く、力をもらえた気がしています。この研修が教えてくれたのは、物事を進める能力があればリーダーに最適である、ということです。良いリーダーとは、決断に際してチームのメンバーと必ず相談する者であることも学びました。この素晴らしい機会を作ってくれたDFPに感謝しています。ここで習得した知識を元に、リーダーシップの能力を活用しながら大きな成功へ向けてチームを強化していくつもりです。
モモ(ウィズア村開発委員会委員長)
ウィズア村で長年暮らしてさまざまな地位で仕事していながら進歩がなかったので、私たちリーダーにとってこの研修はとても良かったです。メンバーがリーダーの言うことを聞こうとしない事態に直面して、一体何が起きているのかと首を傾げるリーダーもいました。ですが、この研修から、リーダーに対して聞く耳を持たない理由が、主に、大半のリーダーがメンバーへの説明責任を負う姿勢を見せておらず、誠実さを持っていないためなのだと、理解することができました。良いリーダーとは、メンバーが追随できるよう、良い手本を見せることができる者でなければならないことを学びました。DFPが来てくれて、リーダーシップをどう機能させるか、どのような資質をリーダーは備える必要があるか、などを教えてもらえたのは、大変貴重なことだと思います。
ビクトリア(採掘労働者グループのリーダー)
このリーダーシップ研修はまさにウィズア村のリーダーたちと住民のために行われたものです。研修で多くのことを学びました。この研修で学んだ大切な点は、リーダーは無私でなければならないことです。この村のリーダーのほとんどは自分のことばかり考えていて、メンバーの利益を考えていません。私としては、採掘労働者グループを改善できるよう、この研修で学んだ全ての知識を活かしていくつもりです。
イサッタ(ウィズア市場監督官)
今回がこの村で参加した初めてのDFP研修になります。DFPから研修参加への報酬の支払いがないため、以前は参加しませんでした。初日は研修の様子を見てみようと思い出席しました。数時間参加してみると、リーダーとしての私にはとても重要な研修だと気づき、丸2日間の参加を決めました。講師の説明には本当に圧倒されました。率直に言って、良いリーダーになる上で手助けとなる有益なことを数多く学びました。リーダーの良き資質を身につけるべく最善の努力をして行動に移していくつもりです。
おわりに
リーダーたちの参加を得て実施された今回の研修。彼らが村で直面する多くの問題は不十分なリーダーシップの結果です。彼らは、村やチームの成功が、リーダーの持つ能力、すなわち、発展をイメージし、人々との合意を形成し、発展計画を堅実に作り実行する能力に大きくかかっていることを理解しました。自分自身のリーダーシップの短所に気づいた彼らは、今後、前向きに進みながら今回得た知識を村の改善に活用していくことを約束しました。参加者はDFPが実施した研修にとても感謝し、村の改善に必要な技能を伸ばすのに役立つ研修を続けてほしいと要望しています。
DFPは活動を引き続き見守りながら関わっていき、必要なときには手を差し伸べていきます。
冒頭写真:行動計画を考える村のリーダーたち(ダイヤモンド・フォー・ピース撮影)