(ロンドン)宝石業界団体である「責任ある宝飾品業のための協議会(以下「RJC」、Responsible Jewellery Councilの略)」が設けている、宝石サプライチェーン上の人権保護を確保するための会員認証手続きが改善されたことが、27の市民団体がRJCに出した公開書状で明らかになりました。しかし、同書状の中で、市民団体は、RJCがかかる手続きを速やかに実行に移す具体策を提示すべきだと警鐘を鳴らしています。
RJCは、宝石サプライチェーンに携わる1,100余りの企業から構成されている団体です。2019年4月、業界や市民団体との協議やアドバイスをもとに、RJCは新たな認証基準である「Code of Practices」(実行項目)を発表しました。すべてのRJC加盟企業は、当該基準を遵守し、RJC入会から2年以内に監査を受けることを義務付けられることになりました。
ヒューマン・ライツ・ウォッチの児童人権のアソシエイト・ディレクターであるジュリアン・キッペンバーグ氏(Julian Kippenberg)は、「人権保護の観点から、RJCが加盟企業に対して責任ある調達のための国際的基準を課すことは良いことです。しかし、RJCが加盟企業に柔軟すぎる姿勢を示し、速やかな実行ができないのではないかという懸念もあります。」と述べています。
新基準では、経済開発協力機構(OECD)が策定した「鉱物の責任あるサプライチェーンのためのデュ-・ディリジェンス・ガイダンス」と呼ばれる国際的基準に則って、加盟企業はサプライチェーンの詳細精査を実施する義務を課しています。このガイダンスでは、詳細精査は、以下の5段階の手順が必要であるとしています。
- 詳細精査を実施する経営体制の構築
- サプライチェーンにおける人権侵害のリスクの特定
- リスクに対する対応
- 独立または第三者による監査
- 実行した手順に関しての報告書の公開
ダイヤモンドや色石を扱う企業の既存の慣行から考えると、RJCの新しい認証基準手続き実行の段階的導入計画では、完全に精査が履行されるまでに時間を要し、最短で2021年4月の予定です。認証には3年の猶予を設けており、言い換えれば、2024年までに完全な精査がなされない加盟企業もあります。
更に、基準並びに認証手続きの見直しの予定が2021年4月以降であることも問題です。ダイヤモンド及び色石企業では、遵守状況の完全な調査がいつなされるか、更に、そもそも現実的になされるのか、という疑問を抱かせる原因となっています。ちなみに、ダイヤモンド・色石以外の宝飾素材供給企業は、猶予期間が1年で、2020年4月までに新基準に則る義務を負っています。
加えて、市民団体は、新基準に含まれる要件に矛盾している部分がある点を問題点として挙げています。1つの規程では報告書の一般公開を明記している一方で、他の条項では報告義務が株主のみとなっています。もう一つの問題点は、認証手続きにおける不透明さで、それが「加盟企業の無責任な行動の原因になり得る」と考えています。
これらの問題点を解決するために、市民団体は、訪問した施設の情報、遵守できていない分野、特定した人権侵害のリスク、リスク分析やリスク回避のために講じた手段を含む、監査概要の公開を加盟企業に義務付けるべきであると述べています。加えて、2020年4月に認証手続きを始める加盟企業全社に対して、OECDによるデュ-・ディリジェンス・ガイダンスの5段階分析のための体制構築を含めた、新しい実行項目に従って監査を行うことを義務付けるべきだと主張しています。
キッペンバーグ氏は、次のように述べています。「RJCの監査プログラムは、もっと強化・透明化するべきだと考えます。消費者が、自分たちの購入する宝石が、労働者の人権や安全性の犠牲の上に作られているのではない、ということが明確にわかることが必要なのです。」
※本記事は「Human Rights Watch」ホームページに掲載されたものを許諾を得た上でDFPにて翻訳したものです。
原文:「New Voluntary Standard for Responsible Jewelry Production」
https://www.hrw.org/news/2019/07/11/new-voluntary-standard-responsible-jewelry-production
(2019年7月11日)
冒頭写真:「