婚約指輪と言えばやはりダイヤモンドを想像する方が多いのではないでしょうか。あるいは、自分への「ご褒美」にダイヤモンドのジュエリーを買う方も少なくないと思います。ただ、いざダイヤモンドを選ぼうとすると、どんなものを選んだらいいのか悩みますよね。

一般的に売られているダイヤモンドは、「4C」と呼ばれる重さや色などの基準が高いほど「よいダイヤモンド」とされます。しかし、そのようなダイヤモンドの中には、紛争の資金源となっている「紛争ダイヤモンド」や、労働者の人権や環境に配慮されていないものも含まれています。

ダイヤモンドは強度の高い宝石で、その語源であるギリシャ語の「Adamas」は「不屈」「征服されない」という意味を持ちます。したがって、ダイヤモンドの石言葉にも「永遠の絆」や「純潔」という意味が込められています。ずっと手元に持ち続けるからこそ、産地や背景が明確で、その意味に恥じないダイヤモンドを選ぶことが大事ではないでしょうか。

 

目次

  1. 4Cとは?
  2. 紛争ダイヤモンドとキンバリー・プロセス
  3. ダイヤモンドをめぐる人権と環境の問題
  4. 理想は「愛でつながるダイヤモンド」
  5. どんなブランドがいいのか?
  6. 「愛でつながるダイヤモンド」を購入した人の体験談
  7. 小さな一歩で大きな変化を

1.4Cとは?

ダイヤモンドは一般的に、カラット(重さ)、カラー(色)、クラリティ(透明度)、カットの4つの基準、いわゆる「4C」を使って総合的に評価されます。これはGIA(米国宝石学会)が1950年代に考案した評価基準で、デビアス社が全米での広告キャンペーンでこの4Cという用語を採用したことで広まりました。現在では世界中でダイヤモンドの品質を評価する普遍的な方法となっています。

まず、カラットについてですが、1カラットは200ミリグラムと定められています。1円玉が1グラムなので、1カラットはその5分の1の重さです。大きさはカット方法によっても異なりますが、1カラットの直径は約6.5mmです。ほかの条件が全く同じ場合、ダイヤモンドの重量が重いほど希少性が高まります。日本の結婚情報誌が行った2019年の調査 では、東京都を中心とする首都圏の回答者の中で、購入した婚約指輪のダイヤのカラット数が0.2~0.3カラットだったと答えた人は33.3%、0.3~0.4カラットだったと答えた人は27.7%で、0.2~0.4カラット(直径約3.8㎜~約4.8㎜)が過半数を占めていました。

ダイヤモンドのカラットのチャート(出典:IGI-INTERNATIONAL GEMOLOGICAL INSTITUTE)

 

次にカラーですが、無色透明に近いほど評価が高まります。無色透明で最高カラーの「D」から始まり、色味が次第に増していって、黄色みを帯びた「Z」まで23段階に分かれます。Dカラーのダイヤモンドの出現確率は2万分の1とも言われるほど希少で、もちろん高額。婚約指輪や結婚指輪には無色(D~F)カラーのダイヤモンドが一番人気なようです。

ダイヤモンドのカラーのチャート(出典:IGI-INTERNATIONAL GEMOLOGICAL INSTITUTE)

 

クラリティは、ダイヤモンドの内包物(インクルージョン)と外部特徴(ブレミッシュ)の大きさ、位置、数、目立ちやすさなどを総合的に判断し、「フローレス」から「I3」までの11段階で評価します。天然ダイヤモンドは地球の奥深くで高熱と高圧力の環境下で形成された炭素の結晶。ほとんどのダイヤモンドには内部に不純物などが含まれ、表面には擦り傷などさまざまな特徴が刻まれます。インクルージョンやブレミッシュが少ないほど高評価とされます。

ダイヤモンドのクラリティのチャート(出典:IGI-INTERNATIONAL GEMOLOGICAL INSTITUTE)

 

カットは4Cの中で唯一人間の技術を評価したものです。ダイヤモンドは鉱物の中でも特に屈折率が高く、内部で光をよく反射させるため、輝きが強く見えるという特徴があります。婚約指輪などで最も多く使われる58面体の「ラウンドブリリアントカット」は、ダイヤモンドに入った光を最も効率よく反射させる形として考え出されたもので、4Cのカット評価はこの「ラウンドブリリアントカット」に限られています。ダイヤモンドのプロポーション(形状)、シンメトリー(対称性)、ポリッシュ(研磨)などによって総合評価され、Excellent(最上級)からPoor(劣る)までの5段階に分けられます。

ダイヤモンドのカットのチャート(出典:IGI-INTERNATIONAL GEMOLOGICAL INSTITUTE)

 

多くの場合、この4Cによってダイヤモンドの希少価値と相場が決まり、国際的に取引されています。ただ、こうしたダイヤモンドをめぐっては、採掘やカットの過程で児童労働、強制労働、暴力、環境破壊などの問題が起きていたり、ダイヤモンドを売った資金で武器などを購入し紛争の資金源となる「紛争ダイヤモンド」が含まれていたりすることも少なくありません。つまり、4Cだけではそれが人・社会・自然に配慮した「エシカルなダイヤモンド」かどうかは分からないのです。

2.紛争ダイヤモンドとキンバリー・プロセス

米地質調査所によると世界のダイヤモンドの約46%がアフリカで産出されています(2019年)。アフリカでは1980~90年代に多くの内戦が勃発し、内戦の長期化・深刻化の原因の一つがダイヤモンドでした。反政府組織がダイヤモンド鉱山を武力制圧し、近隣住民を強制労働させ、採掘したダイヤモンドを資金源として武器を購入していました。こうしたダイヤモンドは「紛争ダイヤモンド」や「血塗られた(ブラッド)ダイヤモンド」と呼ばれています。レオナルド・ディカプリオ主演の映画『ブラッド・ダイヤモンド』(2006年)は、内戦下シエラレオネでのダイヤ密売の実態を描いた物語で、ダイヤモンドをめぐる問題が注目を集めました。

紛争ダイヤモンドの問題が明るみにでるようになり、ダイヤモンド産出国が2000年5月、南アフリカのキンバリーで初めて会合を開催。同年12月1日には、国連総会がダイヤモンドの国際的な認証制度の設置を支持する決議を全会一致で採択しました。これを受け、国際社会やダイヤモンド業界は「キンバリー・プロセス」と呼ばれる、ダイヤモンド原石を輸出する際に紛争ダイヤモンドではないという証明をつけて輸出する取り組みを設置しました。

シエラレオネのコノ地区のダイヤモンド鉱山で働く労働者ら。(copyright©2012ダイヤモンド・フォー・ピース)

しかし、キンバリー・プロセスも完全ではなく、いくつかの問題を抱えています。まず、対象が紛争ダイヤモンドの採掘と流通のみに限定され、採掘労働者の健康や労働環境、児童労働、公正な賃金、暴力といった採掘労働者をめぐる人権問題は対象となっていません。また、キンバリー・プロセスはダイヤモンド原石のみに適用されるため、カットなどひとたび加工されてしまったり、原石の輸出時に複数鉱山のダイヤモンドがまとめられてしまったりすると、産出国や鉱山が分からなくなってしまうという問題点もあります。

※詳しくは「紛争とダイヤモンド」をご覧ください。

3.ダイヤモンドをめぐる人権と環境の問題

ダイヤモンド採掘にかかわる労働者の多くが人権侵害に苦しんでいます。人権侵害の内容は、児童労働、借金返済のための債務労働、強制労働、採掘現場での虐待行為、暴力や性的暴力など様々です。このような人権侵害は、内戦後の不安定な情勢の国や、ダイヤモンド採掘や輸出に関する法律・制度が未整備な国、政治が腐敗した国では多く見られますが、上述した通り、キンバリー・プロセスだけでは防ぐことはできません。

ビジネスと人権に関わる国際基準には、国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」や経済協力開発機構(OECD)の「紛争地域および高リスク地域からの鉱物の責任あるサプライチェーンのためのデュ-・ディリジェンス・ガイダンス」などがあります。国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウオッチやアムネスティ・インターナショナルなどは、採掘から販売に至るまでダイヤモンドのサプライチェーンのどの段階においても各企業がこれらの国際基準に従って人権を尊重する責任があると訴えています。

一方、ダイヤモンド採掘による環境破壊も深刻です。ダイヤモンド鉱山を作るために森林が伐採されていますが、伐採により川の流れが変わり、水が汚れ、生態系のバランスが崩れています。また、ダイヤモンドは採掘時に大量の土を掘り起こす必要があり、しかもダイヤモンドを掘り尽くした後の鉱山跡地は再利用されることなく放棄されることも少なくありません。そのような跡地は水がたまり、池になってしまいます。農地としても使えない上に、マラリアを媒介する蚊が繁殖したり、落ちて溺れる人もいたりして危険なのです。

※詳しくは「環境破壊」をご覧ください。

リベリア西部クンボー村のダイヤモンド採掘現場の跡地にできた人工池(copyright©2017ダイヤモンド・フォー・ピース)

なお、最近では天然ダイヤモンドと同じ物理的特性を持ったラボグロウンダイヤモンドも普及しています。天然のものよりも安価であることに加え、人権や環境に配慮しているとの印象が持たれていることが、注目が高まっている理由のようです。しかし、ラボグロウンダイヤモンドの生産過程における環境負荷は少なくないことや、主な生産国の1つである中国における人権問題を鑑みると、ラボグロウンダイヤモンド=「エシカル」と言い切ることはできないかもしれません。

※詳しくは「天然ダイヤモンドVSラボグロウンダイヤモンド」をご覧ください(近日公開予定)。

4.理想は「愛でつながるダイヤモンド」

では、具体的にどのようなダイヤモンドを選んだらよいのでしょうか?私たちダイヤモンド・フォー・ピース(DFP)は、産出国が分かり、紛争やテロとは関係がない天然ダイヤモンドを「愛でつながるダイヤモンド」と呼び、消費者や宝飾業界にダイヤモンドをめぐるさまざまな課題に意識を向けて頂けるように呼び掛けています。

 

私たちは最終的には以下の項目を満たすような「愛でつながるダイヤモンド」が広く流通することを目指しています。

i. 採掘されてから消費者の手に届くまでの経路が明示されている
ii. 採掘・カット・製造の過程において紛争やテロの資金源になっていない
iii. 鉱山や工場で働く労働者の人権が守られている
iv. 採掘・カット・製造の過程において環境へのダメージを最小限にとどめている
v. 人々や地域社会の権利を尊重している

残念ながら今のところ、上記の項目をすべて満たすダイヤモンドはほとんどないのですが、ダイヤモンドを選ぶ際にはお店の方に産出国が分かる証明書があるかどうかなどを尋ねてみて下さい。RJC(Responsible Jewelry Council:責任あるジュエリー協議会)認定などを受けていてもそれだけで満足せず、どんな認証なのかを聞いたり自分で調べたりする努力が必要です。

※詳しくは「愛でつながるダイヤモンドキャンペーン」をご覧ください。

5.どんなブランドがいいのか?

消費者の方がダイヤモンドジュエリーを選ぶにあたって、私たちは特定のブランドを推薦する立場にはありませんが、例えば国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウオッチ(HRW)が2020年11月に発表した報告書「美しいジュエリー、汚れたサプライチェーン:宝飾品ブランド、調達方法の変更、新型コロナウイルス感染症」などが参考になるかもしれません。

この報告書では、世界的に有名な大手宝飾品・時計ブランド15社をピックアップし、サプライチェーン上における人権侵害や環境問題への取り組みを調査、格付けしています。HRWは2018年にも同様の調査を行っていますが、「各社は金とダイヤモンドの調達方法で改善を重ねてはいるが、その大半は自社商品が人権侵害に汚染されていないことを消費者に保証できていない」と指摘しています。ちなみに、「責任ある調達に向けて重要な一歩を踏み出した」かどうかの格付けで「最高」を獲得した企業はなく、次の「強い」と評価されたのがティファニーとパンドラの2社、「中位」に評価されたのはブルガリ、シグネット、カルティエの3社でした。

ジュエリーブランドの中には「エシカル」をうたっていても、上記の報告書のように責任ある調達をしていることの証明が不十分だったり、実態は異なっていたりする場合があるので、うのみにしないよう注意が必要です。

高級ブランドが立ち並ぶニューヨーク5番街(出典:パブリックドメイン)

6.「愛でつながるダイヤモンド」を購入した方の体験談

ダイヤモンド・フォー・ピース(DFP)は、上述の通り、産出国が分かり、紛争やテロとは関係がないダイヤモンドを「愛でつながるダイヤモンド」と呼んでいますが、そうしたダイヤモンドを購入された方の声を紹介します。

①Masashiさん

ダイヤモンドの産出国/鉱山:オーストラリア/アーガイル鉱山

結婚したい女性には、産地がわかり、保証されているダイヤモンドを贈りたい。私は自身で調べると同時に業者の方にも相談し、カラーダイヤモンドの存在を知りました。その中でオーストラリアのアーガイル鉱山で採掘されたピンクダイヤモンドについては、市場に出ているものはアーガイル社によって管理されていることがわかりました。

私は彼女にサプライズでプロポーズをしました。「必死に探したダイヤモンド、ぜひ受け取って欲しい」との言葉を添えて―。

②TKさん

ダイヤモンドの産出国/鉱山:オーストラリア/アーガイル鉱山

ダイヤモンドの課題を知り、できればその様な課題がないダイヤモンドを身に付けたいと思い、以前から欲しかったピアスを誕生日に購入しました。高価なもの、長く身に着けるものだからこそ、産地や出所が分かるものを選びたいという思いもありました。とてもシンプルなデザインなので場所や年齢を問わず使えるもので愛用しています。大事にして、このピアスを購入した背景(ストーリー)と共に、娘に残していけたら良いと思います。

③Marieさん

ダイヤモンドの産出国/鉱山:レソト/ Liqhobong鉱山

結婚指輪を購入するなら環境や社会面でポジティブなインパクトがあり、納得できるものがいいと思いました。ハイブランドのホームページでどういう取り組みをしているかを見ましたが、キンバリー・プロセスのことに少し触れていたものの、安心できるものがありませんでした。そんな中、エシカルジュエリーを扱っている某ブランドには情報が細かくありました。私が選んだイエローダイヤモンドは、鉱山と研磨工場を特定でき、採掘者にも売上げの一部が落ち、研磨工場はISO認証などを取っていて環境にも配慮していることが分かりました。夫も私がエシカルジュエリーに関心があるのは知っていたので、指輪選びは私に一任してくれました。自分が納得して選んだので自分らしい選択だと思いますし、自信を持って着けられています。

※詳しくは「愛でつながるダイヤモンドキャンペーン」をご覧ください。

 

7.小さな一歩で大きな変化を

ここまで読んで、「ダイヤモンドを選ぶのって意外と難しい」と思った人もいるかもしれません。ダイヤモンドをめぐる問題はとても根深く、業界内でも責任ある調達に向けて動いている企業や組織はまだまだ多くはありません。ただ、買い物や消費は、私たちが「どんな社会を創りたいのか」を示す投票行動のようなもの。あなたがどんなダイヤモンドを買うかによって、ダイヤモンド産業を取り巻く環境は良くも悪くもなるのです。店舗に売られているダイヤモンドの原産国を聞くのでも、インスタグラムで「#ethicaldiamond(エシカルダイヤモンド)」や「#ethicaljewelry(エシカルジュエリー)」などと検索してみるのでも構いません。あなたの小さな一歩が、きっと将来の大きな変化につながります。