2021年度環境保護活動

私たちダイヤモンド・フォー・ピース(DFP)は、ダイヤモンド業界を変革しようとする非営利団体です。ダイヤモンドが人権・環境配慮の上、採掘・カット・製造される世界をめざして活動しています。私たちは現在、リベリア共和国ウィズア村の手掘りダイヤモンド採掘権所有者、採掘労働者、村の方々と協力し、彼らの生計向上に努めると同時に環境保護活動を行っています。この記事では2021年度に取り組んだ環境保護活動を紹介します。

 

地域が抱える主要環境問題

手掘り採掘者や村民たちは自分たちの採掘活動や日々の行いが環境や自らの健康に害を及ぼしている可能性を知りませんでした。さらに、地域住民は適切な衛生習慣の重要性をあまり認識していませんでした。以下にあげた主な問題は、私たちがウィズア村の住民と共に洗い出したもので、活動の基礎になっています。

  • 放棄された鉱山: ウィズア村では、手掘りダイヤモンド採掘者が採掘のために掘った鉱山がその後放置されています。鉱山は水が溜まったままふさがれておらず、池になっている状態です。このような池はマラリア媒介蚊の繁殖地になります。さらに、人や動物がその池に落ち、怪我や場合によっては死に至ることもあります。
  • 森林伐採: 採掘者は採掘のために木を伐採しますが、そこでの採掘が終わっても植林をしません。森林のもたらす恩恵を住民は認識しておらず、植林するための資金や技術力も持ちあわせていません。
  • 水・下水・衛生: ウィズア村では自宅にトイレを持つ人がほとんどおらず公衆トイレ設備がないため、住民は河川や森で屋外排泄を行っています。ごみも河川や野原に捨てています。川の水は、洗濯、料理、入浴に、また一部の人には飲料用にも使用されます。この習慣は、村にとって重大な健康被害をもたらします。住民はごみ処理について教わったことがなく、適切に処理せず川や居住地周辺に捨てるので、ごみがそこらじゅうに散乱し、不法ごみ捨て場が村のいたるところに散在しています。住居のすぐ近くや水源近くにもごみが捨てられており、これは下痢、マラリア、腸チフスといった多くの健康被害を引き起こします。
ゴミがたまっている川べり
地域住民の水源の一つ

DFPの取り組み

私たちはこれらの問題について村民の意識を向上し、研修、マッピング演習、村の総会を通じて、村の行動計画を彼らと共同で策定する取り組みを行いました。行動計画は以下の活動それぞれの完了時に策定され、村民が管理しています。次の項目では、2021年度に行った3つの活動と、そこから生まれた行動計画の概要を説明します。

活動その1: 環境保護基礎研修(2021年8月)

私たちはウィズア村の住民を対象に環境保護基礎研修を行いました。研修には地域のさまざまな組織(採掘農業組合、女性グループ、採掘労働者グループ、村の指導者たち、商売人、ダイヤモンド仲買人、その他の村民)から37名が集まりました。研修で焦点を当てた問題は地球温暖化、水・下水・衛生、そして森林破壊です。

地球温暖化:

2021年8月環境保護基礎研修参加者

参加者の多くは地球温暖化という言葉を聞いたことさえありませんでした。聞いたことがあるという参加者もいましたが、研修を受けるまではその意味を知りませんでした。

水・下水・衛生:

研修講師(DFP現地スタッフ)は次のように説明しました。

1)ごみを適切に処理しないと、ヒトに病気を伝染させるハエやダニなどの虫や動物を誘引する

2)ごみに雨水が溜まり下水に入り込むと、周囲の地下水や河川を汚染する

3)食器や衣服を洗った石鹸水や屋外での排泄物をそのまま垂れ流すと、石けん水、尿、糞便が土壌に染み込み、徐々に周囲の地下水や河川を汚染する

4)金(ゴールド)採掘労働者が使う水銀は、水と水生生物を汚染し、ヒトに健康被害をもたらす

森林破壊:

森林保護の重要性についても、参加者は研修を受けるまでほとんど知りませんでした。研修では森林により酸素生成と炭素隔離が行われることが説明されました。また、森林には野生動物やミツバチが生息しており、これらを守ることがいかに重要かも学びました。参加者は森林がもたらす生態系サービスを、すんなり理解していました。

村の行動計画:

多くの参加者にとってこういったことを学ぶのは初めてでした。自分たちの日常の生活行動が地下水や河川を汚染し、ひいては自身の健康に悪影響を及ぼしていることに気づいたのです。さらに、土壌侵食の防止、家具用木材の供給、果物の生産、動物の生息地の提供といった、健全な森林から受ける恩恵についても確認することができました。参加者は、自分たちを取り巻く環境に十分注意すること、残された森林を保全するために村の規則を整備することに一丸となって取り組むと誓いました。以下の行動計画は、参加者たちが今後検討することとしてまとめたものです。

  • 住民は森林保全のため、多くの木を伐採する高地農業から低地農業への移行を始めること
  • 木炭をつくるための伐採に規則を設けること。炭焼き用の植樹を奨励すること
  • 村が設定する環境規則について、その施行と監視作業を監督する検査官を任命すること
  • すべての採掘権所有者と採掘労働者に対し、掘り終わった鉱山の埋め戻しを強制する規則を制定すること
  • 村が許可するごみ捨て場を決めること
  • 全世帯に対し、家の周辺を清潔に保ちごみは特定されたごみ捨て場のみに捨てるよう義務付ける規則を制定すること。
  • 各世帯にトイレを設置し、屋外排泄をやめる規則を制定すること
  • 河川の水は飲料として安全ではないため、河川ではなく井戸水を飲むよう奨励すること
  • 毎月皆でごみ拾いをするクリーンアップキャンペーンの日を設けること

活動その2: 村総会(2021年12月)

参加者は環境問題について意見を出し合い、マッピング結果を踏まえて問題解決のための行動計画を策定します

DFPは2021年12月に村総会を開催し、環境にやさしい生活を送るために村において行う「行動」について話し合いました。総会で私たちは2つのマッピング演習そして簡易水質検査の結果を共有しました。

放棄鉱山マッピング:

村の関係者によると、ウィズア村には放棄されたダイヤモンド鉱山が50ヵ所以上あるとのことです。2021年10月、私たちは村人有志と共にウィズア村周辺にある放棄鉱山のうち20ヵ所のマッピングをGPSを使って行いました。このマッピングは、村に放棄された鉱山がどれだけあるのか、また採掘活動によって土地がどれだけ劣化したかを記録する意図があります。さらに、放棄された鉱山の急増によって増えた危険性を明らかにする意図もあります。放棄鉱山の池はヒトも動物も死傷させかねませんし、マラリア媒介蚊が繁殖する温床にもなります。

ごみ捨て場、屋外排泄地、そして水源のマッピング:

村には村指定のごみ捨て場や公衆トイレがないため、村全体に不法ごみ捨て場と屋外排泄地が散在しています。住民の居住エリアや水源の近くにもあり、病原菌を運ぶハエやゴキブリなどを引き寄せてしまいます。この問題について啓発するため、私たちは村の有志と共に、主要な不法ごみ捨て場12ヵ所、屋外排泄地10ヵ所、水源7ヵ所をマッピングし、それらの在り処、そして住居や水源にどれだけ近いかを示しました。

ウィズア村の主要な水源、ごみ捨て場、屋外排泄地のマッピング [凡例] WS:水源、DMP:ごみ捨て場、ODF:屋外排泄地

簡易水質検査:

住民は、自分たちが飲料として、また調理、洗濯、入浴、その他生活に使用する水の質について知る必要がありました。使用が安全かを知った上でその水を衛生的に取り扱い、水源を保護するためです。この検査のため、さまざまな場所から水のサンプルを集めました。近くの川の水、ごみ捨て場近くの水、放棄鉱山の水、雨水、ボトル入りミネラルウォーターの水、地元産の袋入り飲料水、そして村の井戸3ヵ所から採取した水(井戸1、2、3)などです。私たちはCOD(化学的酸素要求量)検査キットを使い、簡易水質検査を行いました。

結果、ごみ溜め近くの水が他の水に比べ、汚染レベル100という格段に高い汚染具合を示したのです。川の水と放棄鉱山の水もレベル13の汚染がありました。ボトル入ミネラルウォーターと村の井戸3はレベル5以下で、その他の水サンプルの汚染レベルは5でした。この検査結果により、ごみ捨て場や屋外排泄場が水源に近接しており、水質に悪影響を及ぼしていることが分かりました。

村総会での検討

DFPによるさまざまな環境問題の説明を受け、村民はグループに分かれ、村が直面している環境問題の影響をどう思うか、そして問題解決のため村として何ができるかを話し合い、不十分な環境管理に起因する以下の問題を特定しました。

  • 不十分なごみ管理、屋外排泄、放棄鉱山から生じるさまざまな健康上の問題
  • 放棄鉱山の埋戻しをしなかったことによる土地の劣化。放棄鉱山での農業は不可能であること
  • 私たちは森林から酸素を得て、木々を使って家具、木炭、建築資材にする。森林はこのように重要な存在だが、もし植林をせずに伐採を行うとこれらの恩恵すべてが失われてしまうこと

村の行動計画

村民は行動計画を以下のように策定し、合意しました。

  • 一般ごみ捨て場を特定し、全村民は必ずそこにごみを捨てること、また周囲の環境を清潔に保つこととする
  • 毎月クリーンアップ(ごみ拾い)活動の日を設け、住民全員の参加を義務づける
  • 屋外排泄を根絶するためすべての世帯にトイレを設置するよう規則を制定する
  • 地元でできる森林保護の方法として、多くの木を伐採する高地農業から低地農業への移行を開始する
  • 木炭作りのための森林伐採に関する規制を設ける。炭焼き用の植樹を奨励する
  • すべての採掘権所有者と採掘労働者に採掘後の鉱山埋戻しを強制する規則を策定する
  • 衛生推進委員会を設置し、衛生の促進に関する方針を決め、村民の活動をモニタリング、場合によっては介入する
  • 村が策定した環境規制の施行とモニタリングを監督する検査官を任命する

行動計画に従い衛生推進委員会が設置され、委員長、共同委員長と書記が選出されました。委員会は委員長、共同委員長、書記、検査官、顧問、および委員2名で構成する予定です。

村総会後の参加者たち

活動その3:クリーンアップキャンペーン(2022年2月)

ごみの種類やどう扱いたいかについて話し合う村民

私たちは衛生推進委員会と協力し、クリーンアップキャンペーン(ごみ拾い)を開催しました。参加者たちはさまざまなごみ(金属、缶、ペットボトル、プラスチックなど)を拾って仕分けし、別々のごみ袋に入れていきました。ごみを分別することで、自分たちがどんなごみを出しているのか、そして種類ごとに何ができるかを村民に考えてもらうことが目的です。

ごみ拾い後、それを処分する前に、収集作業中どんなごみを見つけたか、またそのごみをどうしたいかを村民に少し話し合ってもらいました。話し合いで、集めたごみのほとんどがビニール袋、ペットボトルと缶だったことが分かりました。収集したごみは指定された場所に運び、燃やすべきだということも話し合いの上、合意しました。話し合いの後、収集したごみを皆で指定場所に運びました。

村の行動計画

村を清潔にするということは健康的な生活につながること、そして人々は健康であればあるほど幸せになることを参加者は学びました。健康であれば住民たちも医療費を支払わなくて済み、その分教育費、食費、その他必要なものや欲しいもの購入への費用に充てられるため、村の発展が進みます。健康的な生活のため身の回りをきれいにすること、適切なごみ処理と衛生習慣を実践することが重要であると参加者の意見は一致しました。

また、参加者は今後回収したごみのうち、缶や金属をリサイクル業者に売ることにも同意しました。売って得たお金は村の適切な衛生習慣の促進のために村が使う予定です。

今後の展望

この記事で説明した活動に基づき、ダイヤモンド・フォー・ピースは2022年4月に「リベリア共和国手掘りダイヤモンド採掘地域における環境保護と収入向上の両立モデル構築事業」という新事業を開始しました。

この新事業では、受益者である村民の環境意識を高め、日々の行動を改善するだけでなく、有機農業によるアグロフォレストリー、効率的かつ環境に配慮する探査方法やダイヤモンド採掘方法、そして鉱山の埋戻し方法を導入することで、受益者が環境保護を行うことが経済的利益につながるような設計にしています。

 

冒頭写真:クリーンキャンペーン(ごみ拾い)時の集合写真

2022年2月 ©ダイヤモンド・フォー・ピース