ジンバブエ:ダイヤモンド採掘現場での人権侵害が改革の必要性を示す

キンバリープロセスは人権に焦点を当てるべきである

【2012年6月4日(月)=ワシントンDC(ヒューマン・ライツ・ウォッチ)】

キンバリープロセス認証制度(以下、キンバリープロセス)として知られる国際的なダイヤモンド監視機関の加盟国は、ダイヤモンド採掘現場における人権侵害の問題に取り組むようジンバブエに強く求めるべきです。また、加盟国は人権侵害の問題に取り組むためにキンバリープロセスを改革すべきです。現在米国が議長を務めるキンバリープロセスは、紛争ダイヤモンドの採掘と取引について議論するため、2012年6月4日~7日までワシントンDCで年次総会を開催します。

ヒューマン・ライツ・ウォッチによると、近年のジンバブエのマランゲダイヤモンド鉱山における深刻な人権侵害は、政府治安部隊による人権侵害に対してキンバリープロセスが実質的に対処できていないことを露呈したといいます。キンバリープロセスは、当初ジンバブエ産のダイヤモンドの販売を禁止していたにも関わらず、2011年11月にダイヤモンドの輸出を許可しました。それがきっかけとなり、キンバリープロセスの創設団体の1つである非営利団体グローバル・ウィットネスはキンバリープロセスを脱退しています。

ヒューマン・ライツ・ウォッチのダニエル・ベケレ アフリカ担当責任者は、「キンバリープロセスはジンバブエのマランゲ鉱山で継続している人権侵害と、鉱山経営企業による透明性の欠如の問題に取り組む必要がある」と述べました。さらに、「キンバリープロセス年次総会はジンバブエに対して目に見える改善を求め、ダイヤモンドの生産を汚す人権問題に対処できるよう、キンバリープロセス認証制度の改革を重視すべきだ」と語りました。

ヒューマン・ライツ・ウォッチによるマランゲ地域での調査によると、ダイヤモンド採掘現場でのジンバブエ政府軍による人権侵害は2008年ほど深刻ではないものの、続いています。警察や鉱山経営企業に雇われた民間警備会社の人権侵害行為の他、政府軍、警察の責任を問おうとしていないことについて重大な懸念があります。それに加えて、ヒューマン・ライツ・ウォッチはダイヤモンドの生産、収益、採掘権の配分についてさらなる透明性が必要だと述べました。

キンバリープロセスの加盟国は、ダイヤモンド採掘合弁事業が行われているこの地域での状況は問題ないと主張し、ジンバブエから国際市場へのダイヤモンド輸出の増加を正当化しようとしてきました。しかし、ヒューマン・ライツ・ウォッチは2011年8月、合弁事業の区域を巡回している警察や民間警備会社による深刻な人権侵害行為の証拠を見つけました。それまで採掘していた零細採掘労働者に犬をけしかけること、違法にダイヤモンドを採掘していると言いがかりをつけ、地元の採掘労働者を一掃するために武力を使うことなどです。現在まで、このような人権侵害への対策は講じられていません。

ヒューマン・ライツ・ウォッチは、2008年マランゲ鉱山で地元の採掘労働者200人を殺害したジンバブエ政府軍が未だに駐在していることにも、依然として懸念を持っています。キンバリープロセスとジンバブエ政府間の取り決めの一つは、採掘現場が武装解除されることでした。

キンバリープロセスのマシュー・ヤンバ議長は2011年6月23日、マランゲ鉱山で産出されたダイヤモンドに関してキンバリー禁輸措置を解除する一方的な決定を発表しました。キンバリープロセスを含む独立機関のモニタリングにより、マランゲ鉱山での深刻な人権侵害行為や密輸の蔓延が確認されていたにも関わらず、議長はその決定を下しました。この決定が意味するのは、人権侵害に対する監視や、ジンバブエがキンバリープロセスの基準を順守していることを示す根拠なしに、マランゲ産ダイヤモンドの輸出が現在認められているということです。キンバリープロセスは2011年11月、ジンバブエ産のダイヤモンドの販売を制限付きで認めました。ヒューマン・ライツ・ウォッチは、鉱山開発省、その他関連ジンバブエ政府当局、マランゲの採掘産業が、人権侵害を止めるために早急な措置を取り、警察や民間警備会社による人権侵害についての説明責任を果たす必要があると述べました。企業は少なくとも、『安全と人権に関する自主原則』などの国際的に認められた安全に関する基準に従い、人権侵害の申し立てを調査し、捜査を促すべきです。

ベケレ氏は「ジンバブエ政府は、マランゲでの人権侵害を止め、そこで行われた犯罪を起訴する義務を果たすことができなかった」と話し、「採掘企業は問題の一端ではなく、解決の一端を担うことが必要だ」と続けました。

ヒューマン・ライツ・ウォッチはまた、「血塗られたダイヤモンド」や人権侵害によって汚されたダイヤモンドが消費者の手に届かないようにするために、人権に関する規定を条文に盛り込むという根本的な改革に着手するよう、キンバリープロセス加盟国に求めました。しかし加盟国は、人権侵害を犯して採掘されたダイヤモンドの販売を明確に禁止することを条文に盛り込むための合意に達することができていません。

現在、紛争ダイヤモンド(血塗られたダイヤモンド)は、政府に対して武力闘争をしかける反政府勢力の資金源になるダイヤモンドのことだと狭く定義されています。ジンバブエのような政府がダイヤモンドを採掘あるいは販売するときに人権侵害行為を行うことを防げず、その定義には重大な抜け道があります。ヒューマン・ライツ・ウォッチによると、キンバリープロセスの実行可能性を守るためにも、この抜け道は閉ざされねばなりません。

ヒューマン・ライツ・ウォッチは、マランゲダイヤモンド鉱山で継続している人権問題の懸念が、ジンバブエにおける人権危機拡大によって増幅していると述べました。2009年に連立政権を確立したジンバブエのグローバル政治協定は、言論の自由と法の支配を促進し、政治的動機による暴力を終わらせ、人権侵害行為を行っている人々の責任を問うために国内法令を完全かつ公平に適用するための具体策を、書類上では含んでいます。

ジンバブエ国内の経済状況がここ数年でかなり向上している一方で、公約の人権改革や法の支配の尊重に関してはほとんど進展していません。3年前に設置された人権委員会は運営できる水準ではなく、検事当局や警察部隊などの国家機関は政治的偏向が強いままです。人権擁護者や政府を批判する人々は独断的に逮捕され、拘置され、嫌がらせを受け続けています。ヒューマン・ライツ・ウォッチによると、ロバート・ムガベ大統領の政党、ジンバブエ・アフリカ民族同盟愛国戦線(ZANU-PF)は、そのような改革を実行し、人権侵害を終わらせる真の進歩への大きな障害になっています。米国政府は2人のジンバブエ政府関係者、オベルト・ンポフ鉱山担当大臣とヨハネス・トマナ司法長官への渡航禁止令を取り下げ、彼らがワシントンでのキンバリープロセス年次総会に出席することを許可しました。ヒューマン・ライツ・ウォッチは、ジンバブエが国内選挙前に具体的な人権および制度改革を実行するまで、欧米諸国はムガベ大統領と彼の側近に対して資産凍結だけでなく渡航規制も続けるべきだと主張しています。

南部アフリカ開発共同体(SADC)は6月1日、ジンバブエ政府に対して選挙を行う前に改革を行い、新憲法をまとめるよう求めました。

ベケレ氏は「南部アフリカ開発共同体(SADC)によるこの主張は、大衆の共感を呼んだ」と述べ、「キンバリープロセス加盟国は、ジンバブエ政府に見返りを与える前に、基本的人権の改革が実行されるように強く求めるべきだ」と話しました。

※本記事は非営利団体「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」ホームページに掲載されたものを、団体の許可を得て、DFPにて翻訳したものです。
原文:「Zimbabwe: Diamond Abuses Show Need for Reforms」
https://www.hrw.org/news/2012/06/04/zimbabwe-diamond-abuses-show-need-reforms

※冒頭写真:ロバート・ムガベ ジンバブエ大統領(パブリックドメイン)