【2014年国別人権レポート「アンゴラ」 米国国務省 抜粋要約】
アンゴラは共和制国家であり、1975年の独立以来、ジョゼ・エドゥアルド・ドス・サントス大統領率いる与党アンゴラ開放人民運動(MPLA)が政権を握っています。MPLA政権における政府の計画や政策立案は厳格で中央集権的なものでした。2012年8月には新憲法に基づく初の総選挙が実施されましたが、MPLAは得票率71.8%を獲得、ドス・サントスは大統領として再任され、同年9月に5年の任期が開始しました。これまで政府は治安部隊の管理においても同様に権力を行使してきました。
注目すべき重大な3つの人権侵害があります。それは、度を超えた残酷な拷問、むち打ち、警官や治安部隊による違法な殺害、集会・組合・言論・報道の自由の制限、そして公然の政府の腐敗とそれが放置された風土です。
当局による人権侵害は他にもあります。専制的かつ違法な手続きによる身体の自由の剥奪、残酷かつ命の危険を伴う環境における投獄、独断的な逮捕と監禁、公判前の長期間に亘る拘束、それら人権侵害の黙認、法に基づく適正手続きの欠如、非効率な裁判制度、市民のプライバシー侵害、補償を伴わない強制的な立ち退き通告、NGO活動に対する制約、女性に対する差別と暴力、児童虐待、人身売買、労働者の権利の制約、強制労働などが挙げられるでしょう。
政府は人権侵害を侵した者に対する取り締まりの強化に着手しましたが、政治権力の専制を防ぐためのけん制制度の機能不足、十分に取り組める組織能力の欠如、根強い人権侵害黙認の風土や広範に亘る政府当局の腐敗等を背景に、結果が伴わないのが実状です。
1)人間の尊厳の尊重および身体の自由に関する権利 (原文第1章)
【専制的かつ違法な手続きによる身体の自由の剥奪について】
政府当局の専制的かつ違法な手続きによる殺害について報告されています。
【拷問その他冷酷かつ非人道的で侮辱的な処遇・刑罰について】
アンゴラの憲法および法律は、拷問や冷酷かつ非人道的で侮辱的な処遇・刑罰を禁止しています。しかし、現状ではそれらの禁止令は守られておらず、一部の治安部隊による拷問・むち打ち・暴行が報告されています。
ダイヤモンド採掘地域において民間警備会社による労働者への人権侵害が引き続き散見されていると報告されています。
ルンダ・ノルテ州の人権活動家やジャーナリストらによる報告では、ダイヤモンド採掘業者に委託された警備会社による労働者への過度で時に死に至るほどの暴行が行われていることが指摘されています。また、女性に対する性的虐待についても報告されています。
2)(精神の)自由の尊重 (原文第2章)
【言論と報道の自由】
アンゴラでは憲法と法律により言論および報道の自由が保証されています。しかし、政府による報道機関への圧力やジャーナリスト自身による自己検閲により、それは十分に実現されていないのが現状です。
報道の自由について:
民間のラジオ放送局や出版社による厳しい政府批判に対し、それに対する反動もあります。政府当局は政府批判、特に大統領やその家族について触れたものがあるとジャーナリストや出版社に対して迷惑・嫌がらせ行為や逮捕等の手段を用いて圧力をかけました。
暴力と迷惑・嫌がらせ行為について:
政府当局はジャーナリストらに対し、逮捕・迷惑・嫌がらせ行為・脅迫等により圧力をかけました。
例えば、少なくとも2人の著名なジャーナリストにより、治安部隊が彼らの後をつけ写真を撮るなどのプライバシー侵害を侵したという事実が伝えられています。また、ある人権団体の報告によれば、ある土地の所有権に関するドキュメンタリーが公開された後、政府当局による監視や警察による嫌がらせ行為が増加していることが指摘されています。
名誉毀損法と国家安全保障について:
名誉毀損罪は投獄と罰金が科せられる犯罪です。被告人は無実を勝ち取るため、損害を与えているとされる記事や作品の正当性を証明するための証拠を提出しなければならないという負担を負います。
2013年2月、ポルトガル人の検察官らは、人権活動家ラファエル・マルケス・デ・モライス氏が名誉毀損罪として訴えられていた事件を不起訴処分としました。この事件でモライス氏は7名のアンゴラ軍将官と2社の警備会社より2011年に発表した著書「ブラッド・ダイヤモンド~アンゴラの腐敗と拷問」(日本語版未発表)」による名誉毀損の罪で訴えられていました。将官らと警備会社はこの処分に対し不服申し立てを決意、2013年7月にアンゴラで提訴しました。
3)政府および政府関係者による汚職と透明性の欠如について(原文第4章)
アンゴラでは法律で政府および政府関係者の汚職に対する刑罰が定められていますが、それが遵守されていないのが現状です。国内外のNGOや報道機関は、政府当局に蔓延する黙認の風土を背景に実際には汚職が横行しているという事実を伝えています。
4)差別・社会的虐待・人身売買について(原文第6章)
アンゴラの憲法および法律は、人種・性別・宗教・障害・言語・社会的地位に基づく差別を禁止していますが、それが十分に守られていないのが現状です。憲法は性的志向と性同一性(ジェンダーアイデンティティ)については明確には言及していません。女性への差別・児童虐待・子供の売春・人身売買・障害者への差別が問題となっています。
その他有害な伝統的慣習について:
昨年までの報告とは異なり、宗教儀式に伴う人の殺害について新たな報告はありませんでした。政府は国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)および国際移住機関(IOM)と連携し、大規模なプログラムを実施しました。そのプログラムでは、ダイヤモンド採掘地域において伝統的宗教による危険を伴う慣習についての教育が実施されました。
5)労働者の権利(原文第7章)
【強制労働禁止令について】
アンゴラの法律は、いかなる強制労働も禁止しています。しかし調査官の不足などによりそれは十分に効力を発揮していないのが現状です。暴行があっても加害者に刑罰が科されていないケースが多く、一部科されていたとしても暴力を抑止するほど十分には遂行されていません。そのような状況の中、零細採掘労働者を正規の労働市場へ誘導するため、地質鉱山大臣は2014年9月時点で、400人以上を対象に採掘許可証を発行しました。
強制労働は、男女問わず農業・建設業・家内工業、およびルンダ・ノルテ州とルンダ・スル州のダイヤモンド採掘セクターにおいて顕著となっています。出稼ぎ労働者はパスポートの没収・脅迫・不十分な食事提供・監禁の被害に遭っています。政府は法を遵守させるためのトレーニングビデオを作成し、その内容の一つに入国審査官が人身売買の被害者を判別するための手法を盛り込みました。また、INAC(国立子ども研究所)は地域における啓発活動を通じ、南部の農業地帯へ渡る児童を減らす取組みを継続しています。児童強制労働も大きな問題となっています。
【児童労働と労働者の最低年齢について規定する法律について】
アンゴラの法律は14歳未満の児童労働を禁じており、児童が就労する際には年齢が確認できる証明書の提示が求められます。14歳〜16歳の子供については親の許可があり通学に支障がなければ就労が認められ、またその年齢に該当していても既婚であれば親の許可は免除されています。
政府は正規の労働市場では事業者に児童労働の基準を遵守させてきましたが、非正規の労働市場では十分な監視が行き届いていません。むしろ、後者の市場が大規模で、ここにこそ違法な児童労働が蔓延しているのです。報告書によれば、事業者は政府職員が違法児童労働摘発のために事業所を訪問する前に事前密告を受けるため、うまく法をくぐり抜けることができているとされています。
※本記事は米国国務省が発表した、2014年国別人権レポート「アンゴラ」を、DFPにて抜粋、翻訳したものです。
原文:Country Reports on Human Rights Practices for 2014, Angola
http://www.state.gov/j/drl/rls/hrrpt/humanrightsreport/index.htm?year=2014&dlid=236326 (2015年8月15日閲覧)