児童労働が世界にもたらす利益と危険

各国政府は強制的な制限規定を課すべき

【2016年6月6日(ヒューマン・ライツ・ウォッチ)】

(ジュネーブ)-ヒューマン・ライツ・ウォッチは2016年6月12日の児童労働反対世界デーに先立ち配信した動画の中で、各国政府はグローバル・サプライチェーンにおける児童労働を防ぐため、ビジネス活動をいっそう規制するべきだと述べています。グローバル・サプライチェーンにおける児童労働は2016年の世界デーのテーマとなっています。

世界経済にモノやサービスを提供するために何百万人もの子どもたちが苦痛、病気、けがや死のリスクまでも負っています。ヒューマン・ライツ・ウォッチは農業、鉱業、皮革・衣料産業やその他の産業における危険な児童労働について文書に記しています。

ヒューマン・ライツ・ウォッチの子どもの人権アドボカシー・ディレクターであるジョー・ベッカーは「消費者はたいてい、彼らが食べている食べ物、身につけている衣料品、宝石類やその他購入する商品が児童労働により作られたものであるかどうかを知る術がありません」「企業は子どもへの搾取によって利益を得るべきではありません」と言っています。動画はフィリピンとタンザニアの金鉱山で働く子どもたち、アフガニスタンでカーペットを織る子どもたち、米国のタバコ畑やヨルダン川西岸の農業集落で働く子どもたちを取り上げています。タンザニアの金鉱山で働く13歳のリチャードは「鉱山は好きじゃない。毎日学校に行きたい」と言います。

児童労働
ガーナのアシャンティ州アマンシ・セントラル郡のホマセ加工場で石を砕く12歳の少年
© 2014 ジュリアン・キッペンバーグ/ヒューマン・ライツ・ウォッチ

複数の国で産出され、別の国で加工されあるいは組み立てられ完成品となり、世界中の市場で消費されるものもあります。子どもたちはサプライチェーンのどの段階においても搾取されているでしょうが、生産の初期段階において児童が労働に駆り出されることが最も一般的です。

国際労働機関(ILO)は1億6800万人の子どもたちが世界で児童労働に従事し、そのうちの8500万人が健康や安全を損なう危険な仕事に従事していると推定しています。

ヒューマン・ライツ・ウォッチはガーナマリタンザニアフィリピンで金を採掘する子どもたちの危険な状況について文書に記しています。世界全体で推定100万人の子どもたちが小規模で労働集約的な鉱山で働いており、世界の金の15%は手掘りの鉱山から供給されています。

子どもたちは危険な坑道を登り、鉱石の重い袋を運びながら死と怪我の危険にさらされています。彼らはドバイやスイスの精錬所に輸出される金を加工するために使われる猛毒物質の水銀を取り扱うことによる、不可逆的な脳の損傷にも苦しんでいることがあります。

毎年世界の国々に10億米ドル相当以上の皮革を輸出するバングラデシュのなめし革工場ではしばしば子どもを雇用し、中には11歳という幼い子どももいます。これらの子どもたちの中には有害化学物質にさらされることで病気になる子どもや、恐ろしい労働災害で怪我をしている子どももいます。

推計で児童労働の70%は農業に従事しており、農薬被害や鋭利な道具、重機を使った仕事、酷暑の中での長時間労働により、しばしば危険な状況にあります。ヒューマン・ライツ・ウォッチはパレスチナの子どもたちがしばしばヨルダン川西岸のイスラエルの農業集落で危険な労働条件の中、米国やヨーロッパに輸出する農作物を育て収穫するために働いていることを明らかにしました。

タバコ企業にインドネシアで児童労働の子どもたちを搾取して利益を上げることをやめるよう伝えましょう

ビジネスと児童労働に関する既存の国際基準は任意のものです。国連のビジネスと人権に関する指導原則やOECD多国籍企業行動指針などはビジネスの人権に対する責任について詳細に規定していますが、それを強制する仕組みはありません。ヒューマン・ライツ・ウォッチはまた、国際的なタバコ製造会社に原料を供給する米国インドネシアのタバコ農場で働く子どもたちの危険な労働条件についても文書に記しています。これらの国では、インタビューを受けたタバコ農場で働く子どもの少なくとも半数以上が吐き気、嘔吐、頭痛、目まいといった急性ニコチン中毒の症状の経験がありました。

ヒューマン・ライツ・ウォッチはビジネス活動に対してデュー・デリジェンス‐その活動が人権を尊重し、人権侵害に加担していないこと(サプライチェーン全体を通して児童労働やその他の人権侵害を防ぐこと)を確認する措置‐を実行することを義務付ける拘束力のある国際基準の制定を呼びかけています。5月30日には各国政府、労働組合、雇用者組織の代表がジュネーブの国際労働会議の場でグローバル・サプライチェーンにおける働きがいのある人間らしい仕事についての新たなILO基準を設定する可能性について議論を開始しました。

「基準が任意のものであると、それを真摯に捉える企業もありますが、子どもたちやその他の労働者の安全を危険にさらしてまでも無視を続ける企業もあります」とベッカーは言います。「政府はビジネス活動がサプライチェーン全体を通して児童労働やその他の人権侵害に確実に対処することを義務付けるルールを課すべきです」

冒頭写真:Getty Images (Editorial)イメージ写真

※本記事は「Human Right Watch」ホームページに掲載されたものを、同団体からの許可を得てDFPにて翻訳したものです。
原文:「Global Profits, and Peril, from Child Labor」
https://www.hrw.org/news/2016/06/06/global-profits-and-peril-child-labor (2016年10月16日閲覧)