ジュエリー・ショー2024(ロンドン)“平和をもたらす鉱石”トークセッションについての所感
ベス・ウエスト(DFPボランティア)
会場には、人々の声が大きく響き渡っていました。それもそのはず、ロンドンのケンジントンにあるオリンピアは、明るい照明や高い天井のある巨大で広々とした場所で、会場内は活気があふれ盛況だったからです。この響き渡っている音の源が前向きな一歩であるのであれば、決して耳障りではなく、むしろ歓迎すべきものです。
英国の宝石展示会であるジュエリーショーの2024年9月2日に行われたトークセッションに、私はダイヤモンド・フォー・ピースを代表して参加しました。また、ピースゴールドの設立者で、この業界では稀有な存在感のあるグレッグ・バレリオ氏も登壇しました。セッションの主要論点は、従来の鉱山資源産出国において、鉱物資源が紛争の原因ではなく、紛争を軽減する手段となりうるか、という点でした。
本セッションの主催者であり、責任ある調達の分野で強い発言力を持つビビアン・ジョンストン氏は、2日間にわたるイベント期間の最後に設けられたこのセッションが、希望のメッセージになってほしいと考えていました。ダイヤモンドやゴールドのような鉱石は平和を促進するのでしょうか。回答は、努力次第で「イエス」になります。私たちは、このセッションで語られた主張が、イベント中のみならず終了後も参加者の心の中に響くよう努力しました。
セッションには、もっと多くの聴衆にいらっしゃっていただきたかった、という感は否めません。バレリオ氏によると、エシカルジュエリー業界に従事している人たちによるムーブメント自体は起きているものの、エシカルジュエリーの選択肢しかないという状態になって初めて、最後のパズルのピースが埋まるのだと述べています。そのためには、業界に携わる全員が責任を持って「責任ある調達」に取り組むことが不可欠です。したがって、本イベントに出展・参加している企業の代表者全員がセッションに参加したとしても、まだ十分な規模でないといえます。
しかしながら、低い仕切りで区切られたスペースの中の20名ほどの聴衆に加え、間仕切り外で適宜歩みをとめて聞き入いっていただく方々もいらっしゃり、セッションは成功に終わりました。
私たちが座っていたスツールは、一見不安定な高さに見えましたが、座ってみると驚くほど安定していました。不安定に見える中の安定感、という観点で、セッションの主題であるアフリカの手堀り採掘村も、このスツールと同じようだ、と感じざるを得ませんでした。採掘村については、世界のダイヤモンドジュエリー製造過程の重要な位置を占めているにもかかわらず、紛争、密輸、人権侵害などの繊細な問題点に関連することから、業界においてあまり取り上げられてきていません。しかし、適切なインフラと支援により、手堀り採掘者たちには、自ら直接、生活を改善できる力があるのです。これこそが、ダイヤモンド・フォー・ピースとピースゴールドの理念の背景です。
トークセッションの目的はピースゴールドとダイヤモンド・フォー・ピースの理念と活動を紹介することでした。バレリオ氏の活動と、ダイヤモンド・フォー・ピースの創設者で代表理事の村上千恵氏ならびにリベリアのダイヤモンド・フォー・ピース・チームのこれまでの実績には、高い相乗効果があります。両団体は、手堀り採掘者の村落とともに活動しています。採掘者の村は、かつて紛争に巻き込まれたものの、現在は自らの足元にある地面の下から発掘される鉱石を貧困脱却の手段としてとらえ、生活水準を上げることを積極的に模索しているのです。
ピースゴールドは、2013年にバレリオ氏によって設立されました。コンゴ民主共和国の各地域の平和と繁栄を築く手段として、採掘者によるゴールドの輸出を促進することが理念の団体です。現在法に基づき自主的に運営されている10の組合で構成され、社会的企業(DFP編集部注:ソーシャル・エンタープライズ。社会的な目的をもったビジネスで収益事業に取り組む事業体のこと)モデルの営利団体として、採掘者の村落も、最終製品としての高価な販売価格から得られる利益の一部を享受できるように働きかけています。月100キログラムの金塊を安定的に生産し、精錬企業と直接取引をすることで、ピースゴールドは、使命達成への道筋を順調に歩んでいます。
バレリオ氏のピースゴールド紹介の後、私は、ダイヤモンド・フォー・ピースが2019年からのリベリアのダイヤモンド採掘村とともに積み重ねた実績について説明することに重点を置きました。
ダイヤモンド・フォー・ピースは、手掘り採掘者に対して、村落での生活幸福度を改善するため、民主的な採掘組合の設立、公衆衛生の向上や他の収入を得るための手段として養蜂業の導入などを支援してきました。私は、トークセッションにおいて、この文字通り地上ゼロからのアプローチ手法にスポットを当てて説明した上で、ダイヤモンド・フォー・ピースによる(今後実現する)「鉱山から市場まで」のプログラムの確固たる基盤がすでに築き上げられていることを論じました。このプログラムはピースゴールドと同様、ダイヤモンド・フォー・ピースの関与している採掘村が、最終製品としてのダイヤモンドジュエリーの高価な小売価格から適切な利益を得て発展するといった、循環型経済を実現させるためのものです。
しかし、私とバレリオ氏のトークセッションで、聴衆に一番に求めたかったのは、宝石とゴールドに対する認識を変えていただくことでした。宝石やゴールドは、高級品で「持っているといいもの」から、今こそ何らかの形で役に立つものとしてとらえられなければなりません。ひとつひとつの宝石は、前向きな変化をもたらす触媒であると考えるべきなのです。改めて強調したいのは、ダイヤモンド・フォー・ピースやピースゴールドの命題の原動力は、どのような手段を使ってでも、採掘者たちの村落を貧困から脱却させるということです。現状では鉱石は効果的で、ピースゴールドの村落全体から製造されるゴールドの品質が、これを証明しています。ダイヤモンド・フォー・ピースも同様に、同様に、ダイヤモンドが貧困脱却の手段として影響力を及ぼす位置づけであると捉えています。もちろん非常に多くの障害はあり、セッションで本件について直接説明する機会はありませんでした。
手掘り採掘者の生活は厳しいものです。農場を守るためにフェンスを設けるなど一見単純に見える手法は、複数の問題をはらんでいます。1ヶ月分のダイヤモンド供給量は、嵐で崩壊した家の再建の目的のために、売買する免許を持っているとは限らない最初に現れた不法な買い手に安価で売られてしまうかもしれません。病気で働けない養蜂家が不在の間、蟻がハチの巣を破壊してしまうかもしれません。しかし、大事なのは根気強く続けることです。それは、ダイヤモンド・フォー・ピースだけではなく、採掘村の人々にも当てはまります。
村上氏があきらめようかと思ったことはこれまでになかったのか、とジョーンストン氏から質問がありました。採掘村落がダイヤモンド・フォー・ピースによせる信頼を感じ、生活改善の努力を惜しまない手掘り採掘者たちの姿を見て、村上氏は常に熱意を維持してきたと、私は村上氏に代わり回答しました。
私が唯一残念だったことは、村上氏が考えている、変化の真の根拠が何かという深い考察を、明確に言葉に表現できなかったことです。変化は、選択を意味します。採掘村の人々が、唯一の収入源だからという理由で特定の仕事に縛られなくなれば、生計を立てる方法を選択することができるようになります。勉強し、学校を卒業することもできます。決断することもできます。手掘り採掘者、養蜂家、看護師、弁護士、大統領という複数の選択肢があるはずなのです。人々が複数の選択肢の中から自ら選択をした時、初めて前向きな変化をもたらすことができたと言えると考えているのです。
いまだに採掘が採掘者の生計を立てる主要手段であるというのが現実であり、まだその段階までは達していません。ですから、今は、村落の人々を、ダイヤモンド産業のためではなく、ダイヤモンド産業を通じて、支援しましょう。次回のイベントは、私でもなく、村上氏でもなく、採掘者こそが聴衆の前に立てるようにいたしましょう。私たちが採掘者を参加させるのではなく、採掘者の方々が、業界の流れの中で大事な役割を担う一員としての強さと自主性を持つ十分な基準になったという理由で、自ら参加していただきたいです。もちろん、彼らが参加するという選択をすることが前提ですが。
ご参考までに短い動画をご覧ください。
冒頭写真:トークセッションのグレッグ・バレリオ氏とベス・ウェスト氏(写真提供:スチュアート・プール氏)