【クロエ・ボーモントThe Source編集長(エシカルメタルスミス)】
本記事の記載内容は執筆者の意見を表したものであり、必ずしも米国エシカルメタルスミスの見解というわけではありません。これはエシカルメタルスミスのウェブサイト上にあるThe Sourceのために書かれた記事です。
今年のシカゴ責任あるジュエリー会議(CRJC:シカゴレスポンシブルジュエリーカンファレンス)は、例年どおり目を見張る活発なものでした。
私たちは、自分たちの業界をさらに包括的で、公正で、透明性や結び付きがあり、そして責任のあるものにするにはどうしたらよいかについて学び、話し合うために集まりました。またシカゴでは、セッションの合間のちょっとした時間を使って互いに信頼を深め、情報を共有することができ、さらに意欲が湧いてきました。
とはいえ、私たちがこれに弾みをつけ、宝飾業界全体にメッセージを発信する必要があるということは明らかです。
前置きはこのくらいにして、会議で私が最も重要だと思った3つのポイントと、実行可能な次の行動について、詳しく見ていきましょう。
1.証拠・根拠は宝飾業界を守り、語りはそれを発展させる
「読み手が共感できる、確かな証拠・根拠を基にした、人々が主人公の物語を提供することで宝飾業界を守ります」―Pact(米国非営利団体)のサステナブルマーケット部長、クリスティーナ・ヴィレガス氏
最近さまざまな認証やブロックチェーンが話題になっていますが、それもそのはずです。責任ある調達と追跡可能なサプライチェーンの証明こそが業界全体の信用強化に役立つのであり、特にZ世代がそれを期待しているのです。誰もが何でも好きなことをソーシャルメディアで言うことができ、そしてブランドイメージを慎重に情報収集・取捨選択できる時代において、根拠を持って情報を語ることができれば、一目置かれる存在になるでしょう。
ヴィレガス氏が述べているように、商品の向こう側にいる人々に焦点を当てた物語がその根拠と共に語られた場合、消費者はその商品に直接結び付きを感じることができ、商品はただの美しい物体ではなく意義深いものになるのです。
ブリリアントアースの調達および販売管理部長であるセジャル・カラヴァディア氏は、「実際に採掘を行っている人々の写真を見て彼らを知ってもらうことによって、消費者との関わりがそこに生まれ、共感を呼ぶことになるのです」と同調しました。
これさえ受けていればよいという唯一の認証や究極の語り方などというものはないと思います。どちらかというとそれは質と量の問題なのです。もちろん、あなたの取得した認証が正当なものであり、あなたの語る話がグリーンウォッシュ(根拠のない人権・環境保護)でなければの話ですが。
認証に関して取るとよい行動:
- SCS認証の取得を検討しましょう。SCSグローバルサービスの「宝飾における責任ある調達」認証は、「研磨企業、製造企業から加工企業、宝石取扱企業、小売企業までサプライチェーン全体に適用されます。製品種別は微細金属、合金、宝石用原石、宝飾職人が使用する細かな材料、そして宝飾品があります」。あなたがダイヤモンド業界にいるなら、サステナビリティ評価付きダイヤモンドという認証もあります。
- ブロックチェーン技術を使ってみましょう。グーべリン宝石鑑定所が提供するプロブナンスプルーフ(Provenance Proof:原産地証明)は、色石原石と宝飾品のために構築されたブロックチェーン技術のプラットフォームです。つまり、「鉱山から消費者、そしてその先まで宝石のサプライチェーンを追跡できる、永続的に改ざん不可能な記録を提供できるデジタルツール」です。またプロブナンスプルーフでは、小売企業が消費者に、自分が選んだ宝石や宝飾品のサプライチェーン全体を提示できる機能も開発されました。c
- B-Corps認定(DFP編集部注1)を受ける手続きを始めましょう。複雑ですし時間のかかることですので「手続きを始めて」という言い方をしましたが、ビジネスに役立つ可能性があるのです。認定を受けると、社会的に、環境的に、さらに事業運営において最善を尽くすことを重視していると顧客に示すことができるだけでなく、人脈づくりや協力・連携に最適な地域別B-Corpコミュニティに参加することができます。
2.責任ある原石調達は原産国がそれぞれ違うように多種多様
原産国に関する公開討論会で、コロンビアジェムハウスの創設者であるエリック・ブラウンウォート氏は皆に念を押しました。「(責任ある調達に)取り組む方法は一つではありません。手掘り採掘労働者がいくら受け取っているのかを尋ねるよりも、どのように受け取っているのか、そしてそれは公平なのかにもっと目を向けてください」。
さまざまな国から公平に原石を調達するといってもそれは同一条件下にはないということを、ブラウンウォート氏より理解している業界関係者はほとんどいません。ブラウンウォート氏は何十年にもわたって業界の責任ある調達を牽引してきたのです。彼の調達先の一つ、マダガスカルの手掘り採掘労働者は実際そもそも農家の人間であり、原石の採掘は副収入源です。これは、手掘り採掘労働者が原石に対していくら受け取っているのかだけに注目することが、必ずしも道理にかなっているわけではないというエリックの指摘を立証するものです。手掘り採掘労働者のニーズは国ごとに、もっと言えば地域ごとに異なるのです。
ヴァーチュジェムのポーリーン・ムンディア氏は、ザンビアのような一部の国では採掘業に男女格差があり、女性はしばしば利用され「男性だけが良い石を市場で売ることができる」と述べました。
ヴァーチュジェムの共同創設者であり、責任あるジュエリー変革の創設者であるスーザン・ウィーラー氏は、協力関係の重要性を強調し、ヴァーチュジェムは「私たちより現地システムを分かっている原産国内の事業者と協力関係にある」と述べました。さらに、マラウイでは研磨職人の不足により、原石価値を向上させるための宝石研磨が困難な状況が続いていますが、ケニアのような他の国ではまったく問題はないと述べました。
原石は研磨された後に輸出されますが、それは必ずしも倫理的でも単純でもない別の領域です。宝石取扱企業ナインティーン48の創設者、スチュアート・プール氏によると、スリランカには原石輸出のための優れた法的枠組みがありますが、それは非常に長い原石採掘の歴史を有しているおかげであるとのことです。これは主流であるアクアマリンの大部分がマラウイから密輸されているという、前日にチコ・マンダ氏から参加者が聞いた証言とは正反対です。
直接聞いたこれらの証言が立証しているのは、「私たちの宝石はすべて『言うまでもなく』責任ある調達によるもの」と単純には言えないことです。「責任ある」調達と見なすためには、少なくとも基本的なレベルで原産国の状況を理解する必要があります。
あなたがデザイナーならば、宝石や貴金属の調達先の国すべての市場調査専門家になる必要はありません。ただし、あなたの調達元企業がこれらの問題の微妙な違いを認識し、独自のデューデリジェンス(適正評価)を行っていると信じるに足る根拠を得る必要があります。あなたが宝石卸売企業で、サプライチェーンの透明性を高めたいと思っているならば、情報が足りない状態や安易な答えで納得しないでください。あなたが解明できること、どんな分野でプラスの影響を高められるかに焦点を当て、それをうまくあなたの顧客に伝えることも必要です。
責任ある原石の調達に関して取るべき行動:
- あなたが小売企業またはデザイナーで、原石・貴金属卸売企業に何を質問したらいいか助言が欲しいのであれば、エシカルメタルスミスが役立つガイドをまとめています。
- あなたが宝石や貴金属の卸売企業なら、原産地域・国でその価値を維持し技術を向上させるために提携可能な現地の団体があります(一例としてタンザニア女性鉱員協会(TAWOMA)があります。その分派であるTAWOMAユースは、18~25歳の若い女性が宝石の多面カット方法を学ぶための設備を提供しています)。
- 協力し合うことを恐れないでください。あなたのビジネスに合った解決策すべてを自分で突き止めるのは至難の業です。企業が協力し合い、コミュニティの一員として資源を自由に分かち合い、「責任ある」すべてのことに対してお互いの質問に答え合うとき、大成功は起こるものです。エシカルメタルスミスは、英国のフェアラグジュアリーと並ぶ、そのようなコミュニティの一つです。
3.フェアマインドの銀はフェアマインドの金と同様に重要
「私たちは現在の銀取引の枠組みをフェアマインドの銀で揺さぶる機会があります。私たちはフェアトレードでいうところのプレミアム(奨励金)を支払えますし、手掘り採掘労働者だけが銀採掘に関する負担を抱える必要はないのです」―ウィル・ネヴィンス・アルダーファー氏(フェアマインドについてDFP編集部注2参照)
責任ある銀の調達に関する公開討論を私は嬉しい思いで聞きました。金の調達と比べると、これまでほとんど議論されていない議題だからです。フーバーアンドストロング社のトリー・フーバー氏、W.R.メタルアーツ社のウィル・ネヴィンス・アルダーファー氏、そしてリッチライングループ社のマーク・ハンナ氏が登壇し公開討論を通して多くの点を提起しました。
重要な事実:
- 銀が採掘されている鉱山の72%では、銀以外のものも採掘されている(例えば、鉛、亜鉛、金など)
- 世界的に銀は金よりかなり多く採掘されている
- 銀を抽出するために必要な水銀やシアン化物は金に比べてはるかに大量である
フェアマインドの金の副産物として採掘されたフェアマインドの銀を、オンラインで買えるところが現在いくつかあります(フーバーアンドストロング社、フェアエバー社、フェアアロイ社)。さらに、アルダーファー氏は自分の思いを語りました。それは、エシカルメタルスミスが2013年に始めたフェアマインドの金を普及させる戦略に倣い、購入共同体を立ち上げ、フェアマインドの銀を米国市場に普及させようというものです。
銀の採掘がこれほど普及しているのに有害であることを考えれば、責任を持って採掘された銀について議論を続けることがますます重要になってきます。フェアマインドの銀は、現在市場に出回っている銀の価格の約3~5倍のプレミアムがついていますが、アルダーファー氏によると、銀は非常に安価なため、宝石商はこの価格でも購入できるとのことです。
フーバー氏は後で、メキシコが銀の一大生産国であり、手掘り採掘を支援する取り組みを始めるのにふさわしいと指摘しました。彼によると、フーバーアンドストロング社ではフェアマインドの銀に別途料金を上乗せすることはせず、「付加価値」として価格にプレミアムを含めることを決めたといいます。
あなたがビジネスでこのテーマにどう取り組むにしろ、肝心なのは、一生懸命採掘しているものが単に金より価値が低いという理由だけで、銀の手掘り採掘者を無視すべきではないということです。
責任ある銀の調達に関して取るべき行動:
- 銀でデザインするなら、フェアマインドの銀をあなたのジュエリーコレクションに組み込むことを考えてみてください。フェアマインドの銀を使って「試せる」作品をいくつか探してみてください。
もしウィル・ネヴィンス・アルダーファー氏が率いる購入共同体への参加に興味があれば、詳細はwill@wrmetalarts.comに英語でお問い合わせください(この記事を書いている時点で、ウィルは既に関心がある宝石商向けに情報提供用のオンライン会議を実施済で、さらに要望があれば、追加のオンライン会議も開催するはずです)。 - 自身や誰かのために銀のジュエリーを購入するとき、フェアマインドの銀を話題に出してください。米国の宝石商の多くはフェアマインドの金について、ましてや銀についてなど聞いたこともないのです。あなたの影響で、宝石商たちがこの話題についてもっと調べれば、フェアマインドを購入しフェアマインドの金銀を使用し始めるかもしれません。
- フーバーアンドストロング社等の企業に、フェアマインドの銀を絶えず供給するよう求め続けてください。そしてそういった企業から実際に購入するようにしてください。立派な会社であっても、宝石商から十分な需要がなければ在庫を持つことができなくなってしまいます。
結論として言えるのは、あなたの事業の信頼性そして企業責任と社会的責任を果たすために、また、責任ある原料の調達に関してこの記事でまとめたことやそれ以上のことについてあなたの知識を高めるために、できることはたくさんあるということです。
これを読んでいるなら、あなたは既に地元の慈善団体や国際機関に対し、寛大な寄付を行っている可能性が高いと思います。そのことをオンラインや対面で誇りを持って話してください。あなたがパートナーとして、または寄付する先として選んだ団体に、あなたの顧客や業界の仲間全員が、100%共鳴するわけではないとしても、人々はあなたが宝飾業界と世界全体をより良くしようと心から気にかけていることを感じることでしょう。あなたの影響を受けた誰かがその善意を先につないでいくかもしれないのです!
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DFP編集部注1:B-Corp認証とは、B-Corporation認証(ビーコーポレーション認証)のことで、環境・社会配慮等を実施する公益性の高い企業を対象とする国際的な認証制度。製品ではなく、企業のあり方を認証する制度で、米国非営利団体B ラボが運営している。
DFP編集部注2:フェアマインドとは、国際非営利団体アライアンス・フォー・レスポンシブル・マイニング(略称ARM)が運営する、組織・社会・環境・労働面での厳しい基準を満たす小規模金鉱山を認証する制度。購入する企業も一定の基準を満たすことが求められる。
※本記事は米国非営利団体「エシカルメタルスミス」ホームページに掲載されたものを、許諾を得た上でDFPにて翻訳したものです。
原文:「Chicago RJC 2023: Takeaways and Next Steps」
https://ethicalmetalsmiths.org/blog/chicago-crjc-2023-takeaways-and-next-steps(2023年10月16日閲覧)
冒頭画像:シカゴ責任あるジュエリー会議ロゴ(スーザン・ウィーラー氏提供)