【2015年3月23日(月 )中央アフリカ共和国=イリヤ・グリッドネフ(ブルームバーグビジネス)】
ダイヤモンドの密輸人、アカニ・ナターシャ・グラウディスは手のひらにある小さなダイヤモンドを傾け、その黄色い原石から輝きが広がると笑顔を見せる。
「見える?」と彼女は中央アフリカ共和国の首都バンギにあるルレ・デ・シャッセホテルの一室で、とても嬉しそうに尋ね、「少し不透明だから完璧ではないけれど、それでもまだ良いわね」と言う。もっと透明であれば、そのダイヤモンドは、欧州の顧客に輸出する地元の貿易業者に2,000 米ドル相当(約23万円)で売れるだろうと彼女は説明した。そのダイヤモンドの透明度では、たった700米ドル程度 (約8万円)でしか売れない。
グラウディス(34)は、紛争地域で産出されたダイヤモンド原石の流通停止のために結成された国際的な枠組み、キンバリープロセスが中央アフリカに課したダイヤモンド禁輸措置に悪びれることなく取引を行う密輸組織の一員である。それは、22のダイヤモンド産出国の中で、禁輸措置が適用されている唯一の国、中央アフリカ国内の完全な混乱を表している。
イスラム教徒主体の反政府軍セレカがキリスト教徒のフランソワ・ボジゼ大統領を打倒した2か月後の2013年5月に禁輸措置が課せられた。「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」によると、その政権の奪取には、多くの市民の殺害と犯罪が伴ったという。国連は250万人以上が緊急人道支援を必要としていると報告している。
キンバリープロセスは、紛争ダイヤモンドが輸出商品から完全になくなったかどうかを断定できないという理由で、中央アフリカ産のダイヤモンドの取引を禁止した。
闇市場
禁輸措置が実施される以前にも、何百万米ドル相当ものダイヤモンドが闇市場を通して、中央アフリカから密輸出されていた。
ベルギー北部アントワープを拠点とする調査団体「国際平和情報サービス(IPIS)」によると、ダイヤモンドの課税率が隣国のコンゴ民主共和国の3.25%に対し、中央アフリカでは12%と高いことにより、産出高の約30%がカメルーンやスーダン西部のダルフール州に密輸されるようになったという。
中央アフリカ担当の国連専門家パネルは、不法なダイヤモンド取引が蔓延し続けていると報告している。
その国連専門家パネルの責任者であるオーレリアン・ロルカ氏は、禁輸措置が導入されて以降、少なくとも14万カラット、金額で2,400万米ドル相当(約28億円)のダイヤモンドが密輸されていると述べた。
ワシントンに本拠を置く紛争解決団体「イナフ・プロジェクト」所属の中央アフリカ専門家であるカスパー・アッガー氏はメールで、違法なダイヤモンドによる収益は武器の購入、兵士への報酬、セレカやキリスト教徒主体の部隊など主要な反政府勢力の指導者の肥やしに使われていると答えた。
2012年に金額ベースで世界第10位のダイヤモンド産出国であった中央アフリカのダイヤモンドは、その国が1960年にフランスから独立して以降、代々、軍事政権の財源となっている。IPISによると、指導者はダイヤモンド産業を「ドル箱」とみなし、輸出品に高い税金を課して、政治的支援を保てるようにと産出高から分け前を要求してきたという。
重要な資産
1966年1月に政権を握った10年後、(自らをダイヤモンドで飾られた王冠を持つ皇帝だと宣言した)ジャン=ベデル・ボカサ政権下では、ダイヤモンドの産出高が半分以上落ち込み、約29万カラットになったと、IPISは報告している。
中央アフリカにおけるダイヤモンドと金の産業は、10万人もの非正規あるいは小規模採掘労働者に頼っている。ベルギーの首都ブリュッセルを拠点とするアドボカシー団体「国際危機グループ(ICG)」によると、国内人口の約13%である、少なくとも60万人が所得を求めてダイヤモンド産業に何らかの形で従事しているという。
中央アフリカのダイヤモンド取引は伝統的にイスラム教徒によって行われており、彼らは幅広いイスラム教徒によるネットワークやアラビア語を使って、スーダンやチャドなどの近隣諸国に流通網を作っていると、ICGの中央アフリカ事業総括責任者ティエリ・ヴァクロン氏はケニアの首都ナイロビで述べた。
ボジゼ大統領の失脚
ボジゼ元大統領が2008年10月、ダイヤモンド産業の一掃を行い、その際にダイヤモンドや現金、備品を押収したことがきっかけとなり、不満を持ったイスラム教徒の商人や採掘業者たちが反政府軍に参加するようになったと、ヴァクロン氏は話した。それから5年後、ボジゼ政権は結果的に崩壊し、セレカの武装勢力がバンギを掌握した。
ブリュッセルに本拠を置く「戦闘兵器調査」の12月の報告によると、内戦開始以降、「かなりの数」の安価な中国製の手榴弾や中国製、スーダン製、ヨーロッパ製の武器や銃弾が中央アフリカに流入しているという。
キンバリープロセスは6月、ダイヤモンドの取引国に対して、「警戒を強めること」と「中央アフリカのダイヤモンドを没収し、合法な取引の中で流通を禁止すること」を促す声明を出した。
キンバリープロセスによる要請があったのは、5月にベルギーの連邦当局が170万米ドル相当(約2億円)のダイヤモンドの原石を押収した後だと、国連専門家パネルは10月の報告書で強調した。また、原石はおそらく中央アフリカ産であり、コンゴ民主共和国を経由した後、ドバイを通って密輸されたという。
押収されたダイヤモンド
国連は10月の報告書の中で、押収されたダイヤモンドは、バンギに本拠を置く「中央アフリカダイヤモンド購買局(Badica)」のアントワープ支局である「カルディアム」に輸送されていたと述べた。また国連は、Badicaが2013年のクーデターの実行犯である反政府勢力、セレカに資金を提供したと断言した。「ドバイダイヤモンド交易」は7月、それらのダイヤモンドには有効な証明書があり、コンゴ民主共和国産だと述べた。
キンバリープロセスのベルナルド・カンポス会長にコメントを求めるメールを2回送ったが返信はなく、団体のウェブサイト経由でもメールを送ったが回答は得られなかった。
Badicaのアッバース・アブドゥルカリーム理事長は、ダイヤモンドの密輸とセレカへの支援を否定し、告発の対象になっていない競合他社を非難した。
「国連の専門家たちは我々に話さなかった」とアブドゥムカリーム理事長は、カナダで育った時に学んだ英語で話し、「ここのダイヤモンドの産地はかなり荒れている。大手4社が競合しているので、我々がセレカに資金を提供して、密輸していると他社が密告すれば、彼らにとって都合が良いのだ」と語った。
販売できない
アブドゥルカリーム理事長は、何百個もの黄色や緑色の小さなダイヤモンド一杯の白い封筒を開けながら、禁輸措置開始以降収益が90%も落ち込んでいると述べた。
また彼は「これは1か月で集めたものだ。おそらく約5万米ドル相当(約600万円)ある。しかし、ダイヤモンドをただ集め続けることはできない。いつか売る必要がある」と話した。
グラウディスは、幸運に恵まれた採掘業者は最も近い町もしくは交易の中心地でダイヤモンドを仲介業者に売っており、その代わりに仲介業者はバンギの顧客に宝石を売っていると述べた。そして密輸業者は、世界中の宝石製造業者に供給している、ナイジェリア、フランス、カメルーンなどの販売業者の国際流通網を利用する。
グラウディスは「採掘業者は私のような密輸人を非常に好むの。彼らは原石を持ってきて、私はお金を払っているわ」と話した。
※本記事は米国の情報誌「Bloomberg Business」に掲載されたものをDFPにて翻訳したものです。
原文:「Smugglers Defy Conflict-Diamonds Ban in Central African Republic」
http://www.bloomberg.com/news/articles/2015-03-22/smugglers-defy-conflict-diamonds-ban-in-central-african-republic (2015年5月2日閲覧)
冒頭写真:「中央アフリカ共和国ダイヤモンド購買局(Badica)」(国内で2番目に規模の大きいダイヤモンド買取業者)