リベリア共和国手掘りダイヤモンド採掘コミュニティの強靭性(レジリエンス)向上事業

本事業は、世界銀行EGPS手掘り採掘コミュニティ対象COVID-19緊急支援助成金を受け、米国NPOであるエンパワメント・ワークス(EW、Empowerment Works, Inc)とダイヤモンド・フォー・ピース(DFP)が実施した事業です。新型コロナウイルス感染症による悪影響の緩和を目的に、2021年1月から5月にかけてリベリア共和国で実施しました。

事業は3つの活動で構成され、それぞれ異なる目的があります。

  1. 保健:新型コロナウイルス感染症がもたらすマイナス影響を軽減
  2. 経済:手掘りダイヤモンド採掘組合が使用できる適正評価のためのツール開発
  3. 調査:ダイヤモンド輸出業者を取り巻く状況の理解

1. 保健

新型コロナウイルス感染症がもたらした保健医療へのマイナス影響を軽減するため、リベリア共和国西部に位置するボミ州とバポル州にある17の手掘り採掘村で、採掘労働者や住民を対象に保健と石けん作りに関するワークショップを開催しました。ワークショップの開催に先立ち、現地における新型コロナウイルス感染症と健康・衛生状態をより深く理解するため、私たちは対象村で予備調査を実施しました。その上で、新型コロナウイルス感染症だけでなく下痢、マラリアといった一般的な他の病気についての知識も参加者に提供すべく、ワークショップの内容を作り込みました。ワークショップでは手洗いに重点を置くことにしました。というのも、17村のうち10村には診療所がなく、予防が非常に重要であるにもかかわらず、ほとんどの住民に石けんで手を洗う習慣がないことが分かったからです。ワークショップ後、多くの参加者の日常に変化が表れ、石けんで手洗いを行うようになりました。また一部の地域は、衛生面を改善するだけでなく収入を生み出すことを目指して石けん作りを始めました(本記事末尾のマーサとゾーイのストーリーもご覧ください)

2021年9月、石けんで手を洗うニュアンディ村の子ども(撮影:ダイヤモンド・フォー・ピース)

 

2. 適正評価ツールの開発

2つ目の活動は、リベリアのダイヤモンド手掘り採掘組合が今後組合として採掘を行うにあたり、採掘における人権・安全配慮や組合のガバナンス*を評価できるツールを開発することです。私たちはまずツール(一連の質問)を作成し、採掘組合にてテストを行った上で改良を加えました。

テスト時に組合員は適正評価の概念を受け入れ、その重要性と享受する利益を理解し、時間をかけてすべての質問にきちんと答えを出してくれました。彼らの理解を促進するために用意したパンフレットや動画に登場する信頼のおける海外バイヤーの声が、組合員のやる気を出させてくれたのです。

組合の採掘活動における人権・安全配慮やガバナンスを、このツールを用いて定期的に評価し結果を公開することで、ゆくゆくはリベリアの採掘組合が責任を持って採掘したダイヤモンドを、信頼のおける海外のバイヤーに結びつけることを目指しています。

*この場合のガバナンスとは、健全な組合運営を行うための組合自身の管理体制のこと

適正評価の重要性を記したチラシを見る採掘組合員たち(撮影:ダイヤモンド・フォー・ピース)

制作した責任ある採掘や原料調達に関する動画

3. 調査

3つ目の活動は、輸出免許を持つリベリアのダイヤモンド輸出業者を対象とした調査を実施することで、彼らが直面しているビジネスの状況と課題を理解し、彼らに責任ある調達の概念を紹介し、手掘り採掘されたダイヤモンドの追跡可能なサプライチェーンをリベリアに作る計画を立案することです。調査に協力した輸出業者達は、私たちが制作したチラシや動画を見て、責任ある調達への関心とさらに知識を得たいという希望を示しました。

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「人生を変える石けん:ニュアンディ村のマーサとゾーイ」

自分で作った石けんを持つマーサ(撮影:ダイヤモンド・フォー・ピース)

マーサ・セー

マーサ・セーは40歳、3ヵ月から18歳の8人の子どもを持つシングルマザーです。リベリアの採掘村の一つであるニュアンディ村に住んでいます。

両親がそうであったように、マーサは自分の作った農産物(米、パーム油、コショウ、ベネシード、オクラ、ケイフィーと呼ばれる野菜やその種)を地元の市場で売って収入を得る農民です。

新型コロナウイルス感染症は彼女の生活に大打撃を与えました。農産物を売る市場はなくなってしまい、さらに夫は8人の子どもを養うのをマーサ一人に任せて出て行ってしまったのです。新型コロナウイルス感染症感染拡大防止のための行動制限により、彼女が親戚を訪ねることも、親戚が生まれたばかりの赤ん坊の衣服を整えたりするなど、彼女の子育ての手伝いもできなくなってしまいました。

本事業の保健ワークショップはマーサの生活に大いに役立っています。衛生の基本となるABC(トイレの使用後に石けんで手を洗う、家の周辺は清潔にしておく、露天掘りのトイレは家の隣に作らないなど)を教わっただけでなく、蚊帳で自分と子どもたちの身をマラリアから守る方法や、下痢などの病気に対してすべき基礎治療といったことも学ぶことができました。本事業以前にこのような基本的習慣を村人たちに教えたNGOはなかったのです。

さらに、マーサは本事業のおかげで石けんの作り方も習うことができ、今ではそれを売って家族を養うことができるようになったので、大変感謝しています。

石けんを作るゾーイ(撮影:ダイヤモンド・フォー・ピース)

ゾーイ・カンネ

ゾーイ・カンネは30歳、18ヵ月から14歳の4人の子どもを持つシングルマザーです。ゾーイの父親が採掘を行うためにボン州からニュアンディ村に引っ越し、そこで母親に出会って以来ここに住んでいます。

自称ビジネスウーマンであるゾーイは、自身や子どもたちだけでなく、盲目の祖母、病弱な叔父、精神障害を持つ母親など年老いた親戚を養うため、スリッパや衣服、子ども用の下着などを地元で販売していました。母親の病気が原因で、ゾーイの父親も夫も家を出ていってしまったので、彼らの世話はゾーイただ一人にゆだねられているのです。

新型コロナウイルス感染症の出現でゾーイの仕事は立ち行かなくなり、彼女は(母親が以前していたように)生きていくために農業に戻り、農産物(トウモロコシやエンドウ豆)を地元で売るようになりました。教育を受けられなかったゾーイは、自分の子どもたちを学校に行かせ、自分の老後の面倒をみてもらいたいと願っていましたが、これも新型コロナウイルス感染症のせいでできなくなってしまいました。

しかし本事業によってゾーイは衛生について学習しました。家族の誰も、いや前の世代においても誰も石けんでの手洗いなど教わったことがありませんでしたが、ワークショップのおかげで家族は皆手を洗うようになりました。また、ワークショップの指導で、トイレを家の外に建て、生活する場所をきれいに保ち、自身や家族の口にする食料品や水をできる限り清潔にしておくことも行いました。ゾーイは石けんの作り方も学び、これを売ってこの困難な時期に家族が生き延びる足しにしています。

自分で作った石けんを持つゾーイ(撮影:ダイヤモンド・フォー・ピース)

 

ダウンロード

以下の資料・文書はオンラインでご覧いただけます。

謝辞

本事業チームは、リベリアのダイヤモンド輸出業者(輸出免許所有者)の連絡先情報を提供してくれたリベリアの鉱物・エネルギー省、責任ある採掘・調達に関する動画の撮影に協力してくれたジャレッド・ホルスタイン氏、ケビン・ヴァンティゲム氏、ニール・ホルネス氏、調査のグラフや表を作成してくれた横手春子氏、富田泉氏、そして書類の校正をしてくれたベス・ウエスト氏に心から感謝いたします。

  

冒頭写真:2021年9月、石けんを使って手洗いを行うニュアンディ村の皆さん(撮影:ダイヤモンド・フォー・ピース)