死と隣り合わせのリベリア人の日常〜妊婦さん編〜

こんにちは。ダイヤモンド・フォー・ピース代表理事の村上です。

国際協力の仕事に携わっていると、アフリカの日常が自分の中では当たり前になってしまっているのですが、日本や先進国の人々にとっては想像を超えるものらしいということを、先日改めて認識する機会がありました。

その一端をここに記しますので、私たちが活動している国がどのような国なのか、少しでも知って頂ければと思います。以下は友人限定で公開したソーシャルメディアの内容を編集したもので、臨場感をそのままお伝えするため、である調のままとさせて頂きます。

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今回(2022年10月)はリベリアに2ヶ月程いる予定で、最初の3週間が過ぎた。首都モンロビアから車で7時間程かかるダイヤモンド採掘村のウィズアという村でプロジェクトを実施しているので、そこに10日ほど滞在。滞在3日目に、借りていたレンタカーのエンジンがかからなくなり、修理工が首都に2回部品を買いに行く。滞在予定を2日延長してなんとかエンジンがかかるようになり、DFPリベリア事務所がある町に帰れることになった。

出発の朝、うちのスタッフがこの村に緊急事態発生と言う。妊婦さんの具合が悪く村の診療所では対応できないので、村から舗装されていない悪路を4時間程行ったタブマンバーグの高次病院に連れていく必要があると言う。今日この村から出る車は我々の車1台のみ。もちろん搬送をOKした。

私たちが一緒に活動しているウィズアの組合員の中に、保健所勤務の人がいる。その人が私のところに出発前のあいさつをしにきてくれた。その時にこの妊婦さんの話をすると、「それは聞いていない。誰をどこに搬送するのか記録する必要がある」とのことで、私と一緒に妊婦さんの元に行く。そして彼曰く「(搬送は)よくあることだよ。」そういえば、ウィズアには診療所はあるが(診療所すら無い村も多い)、医師はいないのだ(診療所には、保健師や看護師、准看護師がいる)。

ほとんど歩けない状態(かつ出血もしていたらしい)の妊婦さんを、彼女の旦那さんや村の保健師が車の後部座席に運び込む。村の保健師2人が後部座席に付き添い、私は助手席へ。うちの男性スタッフは荷台に座る。

レンタカーの運転手(こちらではレンタカーを借りると運転手も自動的に付いてくる)は、早く自宅に帰りたいのかそわそわしている。まだ準備が整っていないのに早く出発したがり、うちの男性スタッフに「今、妊婦さんの具合が悪くて大変なんだから辛抱しろ」と言われ不満顔。

運転手の座席がかなり後ろに倒してあり(135度くらい)、保健師さんの座る場所や足の置き場がかなり狭くなっていた。私が「もう少し座席を前にしてくれる?」とお願いすると、「この角度じゃないと、長時間運転できない」と主張する。「みんな大変なんだから、少しくらい前にしても大丈夫だよね?」と再度お願いするも嫌がられるが、一人のわがままだけを許すわけにもいかないので、ほぼ無理やり座席を直してもらい、ようやく出発。

今回は車の調子もイマイチなので、タブマンバーグから呼んで修理してくれた修理工3人が1台のバイクに3人乗りしてついてくる。万が一車が止まったら、すぐそこで修理できるように。

今は雨季の終わりなので、水たまりも多く、道がボッコボコ。1〜2時間程行ったところで修理工達が乗っていたバイクのタイヤがパンクし、バイク共々全員が我々の車へ。荷台に乗り切れないので、車の屋根に2名座る。

妊婦さんは本当に辛そう。悪路で車が揺れる度、うめき声が聞こえてくる。車に乗るだけでも辛いはずなのに、これを4時間我慢しないとならない。。。彼女の旦那さんが私に「(彼女を搬送してくれて)ありがとう」と言った時の悲しそうな顔を思い出す。もしかしたら、旦那さんは彼女の死を覚悟したのかもしれない。

自分が彼女の立場だったら、しんどすぎて、自分がこの国に生まれたことを恨むだろうと想像し、悲しくなる。

この悪路もこの国がよくならない一例だ。私が初めてリベリアに来た2014年と2022年を比べて、地方への道路がよくなっていない。よくなっていないどころか、ボコボコ度がひどくなっている印象だ。リベリアに初めて来た方は、グーグルマップが表示するウィズアへの移動時間を見て「首都から2〜3時間で着くなんて近いですね」と言う。その移動時間は、「舗装されていれば」の話で、実際は全く違う。舗装されていれば、農産物も運びやすく商品価値が下がる前に首都に運べるだろう。実際には道路状況が比較的よい乾季でも、6〜7時間はかかり四輪駆動でなければ移動できない。農産物は移動を待つ間に悪くなり価値も下がってしまう。一所懸命農産物を育てても、市場へのアクセスが悪すぎて、その苦労が報われないのだ。

(写真)リベリアの地方に続く道路の例。この写真は2016年に撮影したものですが、この時と比較して改善は見られません。©Diamonds for Peace

タブマンバークの産科病院に到着。すぐに医師や看護師と思われる人たちが車椅子持参で出てきて、彼女を病院の中に連れていく。それにしても病院がやけに閑散としている。患者の姿が他にない。私がケニアにいた頃、病院はどこも人で溢れていたが、ここは違うようだ。

(写真)タブマンバーグの高次産科病院に到着した時の様子©Diamonds for Peace

彼女とお腹の赤ちゃんが大丈夫なことを祈りつつ帰途につく。しばらくすると、救急車が我々の車を追い越していった。救急車の中の人たちが私たちに手を振っている。どうやら、先程の妊婦さんの付添いの保健婦達のよう。ということは、連れていった病院でも対応ができず、首都の病院に搬送しているということ。

しばらく行くと、その救急車が給油のため止まっていたので、うちのスタッフが状況を聞きに行く。先程の高次産科病院には機器がなく対応できないので、想像通り首都の病院につれていく最中とのこと。妊婦さんの容態は安定している模様。

(写真)妊婦さんをのせた救急車。「リベリア国保健省の使用のため世界銀行が提供した」との記載あり ©Diamonds for Peace

うちのスタッフの話によると、病院に救急車はあるが、ガソリン代がなく患者が払わなければ他の病院に連れていってもらえない。病院が対応のため機器を購入(輸入)する必要がある場合も患者が払う。国連勤務のとある人によれば、公立最高峰のJFK病院は、Just for Killing病院(殺人病院)と揶揄されている。

我々が首都に入りしばらくした頃、付添の保健師からスタッフに電話が入った。首都の病院で超音波検査をしたところ、赤ちゃんの心音は聞こえなかったとのこと。患者さんは薬を2回処方され、それをこれから飲むところだと言う。

ケニアに住んでいた時、保健省のプロジェクトだったので地方の病院に何度も行ったが、ここまでのひどさではなかった気がする。高次産科病院で超音波検査をできないとは、高次病院と言えるのか?だから他に患者の姿がなかったわけだ。

本当にこの国はひどい。国の予算が全くないわけではなく、政治家が予算を食いつぶして何もしていない。前大統領の時の方がまだ色々な施策が実施されていたと言う。それでもウィズアの人たちと話すと、また同じ人に投票するという人がたくさんいて驚く。もっと驚くのは、理由がないのにその人を支持していること!さらに色々な人から話を聞くと、「この候補者に投票してきて」と言って、選挙時に若者にお金を払う輩も多いそう。国民の半数以上が、国が定めた貧困ライン以下で生活している国。少額でももらえるなら、喜んでお金をもらって言われた候補に投票してしまう人が多いのは簡単に想像できる。結果、そのしわ寄せは彼女のような末端の人にくる。。。

本当にやるせないなあと思った一日。そして「生まれた国が違うだけで、こんなにも人生が違うのはおかしい」と国際開発を学び始めた頃の気持ちを思い出した。

 

後日談(その1)

翌月ウィズアに戻ったところ、知らないおばちゃんが急に私に寄ってきて、「ありがとう、ありがとう!」と言う。どなたかと思ったら、搬送した妊婦さんのお母さんだった。赤ちゃんの命は救えなかったけど、妊婦さんだけでも助かったのはよかった。妊婦さんはウィズアに戻ってきていた模様。

これを日常にしてはいけないが、そうなってしまっているのがリベリア。

こんな出来事があると、自分ができることの小ささを思い知らされるが、そこで諦めてはいけない。「微力でも無力ではない」ことを信じて行動するのみだ。

 

後日談(その2)

2023年5月〜6月、ウィズアを再訪した際、搬送した元妊婦さんが元気になっている様子を確認することができました。本人の許可を得ましたので、写真を掲載します。

Saved woman
元気になった元妊婦さん

 

冒頭写真:レンタカーの荷台にバイクを載せ、屋根に修理工たちが座る様子©Diamonds for Peace