
本記事では、「エシカル」に対して一貫した姿勢を持ち、責任ある調達に貢献する宝石卸売企業の経営者、ジャレッド氏へのインタビューを通じて、彼の信念やビジネスへの姿勢、彼がもつ宝飾業界への望みを紹介します。読者の皆様の責任ある調達を行う上でのヒントになれば幸いです。
ジャレッド氏紹介文
米国サンフランシスコを拠点とする宝石卸企業ダマデオ(D’AMADEO)の経営者、ジャレッド・アマデオ・ホルスタイン(Jared Amadeo Holstein)氏は、産地が明確な宝石や、リサイクルされた宝石を専門に扱い、アメリカや東アフリカ、西アフリカなど信頼できる生産地から直接調達しています。
コミュニティ・フォー・エシカル・ジュエラーズ(Community for Ethical Jewelers)のアドバイザー委員やそのレスポンシブル・ソーシング・コミッティー(Responsible Sourcing Committee)の共同議長を務めるなど、責任ある調達の分野で業界内からも非常に信頼されています。
祖父が地質学者であり、幼い頃から鉱物や宝石に親しんだ彼は、美術史とイタリア語を学んだ後、ジャーナリストとして活躍し、現在は D’AMADEO として背景の見える宝石取引を続けています。
―「エシカル」という言葉に対してどのようにお考えでしょうか?
「エシカル」という言葉について、人々はこの言葉をどのように使おうと自由です。ただし、私自身は、自分のビジネスを説明する際、この言葉を使いません。なぜなら、この言葉は人によってまったく異なる意味を持ってしまっているからです。この言葉は現在までに、ジュエリー業界に限らずさまざまな消費財のマーケティングで非常に広く使われてきました。その結果、この言葉の意味は薄まり、時に誤解を招くものになっています。
言葉をどう捉えるかはとても重要です。言葉は、私たちがそこに意味を与えることで初めて意味を持つものだからです。現在、「サステナビリティ」や「エシカル」という言葉はあまりにも曖昧に使われています。これらの言葉を不適切に使うことにはリスクがあります。特にその目的が単に商品を売るための道具となる場合には、なおさらです。
―企業が「エシカル」という言葉を使うとき、必要な姿勢はどのようなものでしょうか?
まずは、その「エシカル」という言葉が自分たちにとってなにを意味するのかを、明確に定義づけることだと思います。ひとりの人間として、ビジネスとして、そして「何を誰に売っているのか」という文脈に基づいて定義する必要があります。そのうえで、その定義をお客様に対して明確に伝えるべきです。
ただし、それには弱さを見せることも求められます。「エシカルである」ということは、自分たちがまだ成長途中にある部分を認めることでもあります。つまり、すべての問いに答えも持っていない部分や、本当は別の素材を使いたいけれど現時点ではそれができない状況を正直に認めることです。顧客に対する透明性は不可欠です。
―透明性に関する不確実性について、業界はどう向き合うべきでしょうか。
鉱山から、商人へ、製造企業へ、ディーラーへ、と何人もの手を渡るダイヤモンドのサプライチェーンのすべての段階で誠実さを保つのは非常に難しい。ジュエリー業界がこうした不確実性に向き合うには、「分からない(”I don’t know”)」と言うこと、弱さをさらす勇気が必要です。私の場合は卸売会社なので、比較的それがしやすい立場にあります。小売店のカウンター越しに、定価で商品を売らなければならない立場ではないからです。多くの文化では、「分からない」と言うことが無能さの表れと受け取られてしまう場合があります。ですから、他国の小売企業に対して「こうすべきだ」と言うことは、私には適切ではありません。ただ、私自身の経験としては、「分からないこと」を認めることが、むしろ信頼を築いてくれると感じています。なぜなら、顧客は石が美しいからという理由だけで私から購入しているのではなく、私が「来歴(プロヴェナンス)」を重視し、自分が知っていることも、知らないことも含めて共有しているからです。小売企業が不確実性を含んだ状態で販売の会話を始めることに恐れを感じることは、理解できます。それでも最終的には、透明性こそがより深い信頼を築くのです。
―取引先はどのように選び、どのように信頼性を確保していますか?
私はビジネスパートナーを選ぶ時、常にオープンな姿勢で臨みますが、同時に必ず多くの質問を持っていきます。私は、常に「背景にある状況」を理解したいのです。たとえば、とても素晴らしい料理を食べるときでも、私はこう考えます。「この食材はどこで育ったのだろう?誰が育てたのだろう?」と。ですから、ジュエリー業界に入り、初めて大きな卸向け展示会に参加したとき、カラーストーンが「どこで」「誰によって」採掘されたのかという基本的な質問に答えられる人が、あまりにも少ないことに衝撃を受けました。状況は少しずつ良くなっていますが、まだ十分ではありません。だから私は質問をします。とにかく、たくさんの質問をします。「なぜ?」「誰が?」「どこで?」と。
サプライチェーンは、伝統的に非常に不透明なものです。多くのサプライヤーは、自社が「どこから買ったか」という直前の情報しか知りません。たとえばバンコクのディーラーは、別の誰かから買い、その人はさらに別の誰かから買っている、という具合です。石が人の手を渡るたびに、まるで伝言ゲームのように情報は少しずつ失われていきます。
レスポンシブル・ジュエリー・カウンシル(Responsible Jewelry Council/RJC)のような組織は、確かに役に立ちます。RJC 認証を受けているということは、労働者への適切な支払い、安全な労働環境の確保などが、第三者によって確認されているということです。ただし、私にとってそれは最低限の基準にすぎません。私は、ディーラーとして、また一人の人間として、RJCの範囲を超えた部分にも関心を持っています。だからこそ、私はまた質問をするのです。
その結果、私が取引するサプライヤーの数は、驚くほど絞られていきます。なぜなら、多くの人は実際のところ「答えを持っていない」からです。でも、それ自体は問題ではありません。「分からない」と言ってくれる人こそ、一緒に仕事を始めるきっかけになり得ます。実際、私が築いてきた最良の調達関係のいくつかは、「分からないけれど、調べてみる」と正直に言ってくれた相手から始まりました。一方で、基本的な質問をしただけで怒り出すような相手とは、おそらく取引すべきではないと思っています。
そして、私は単なる言葉だけの説明を求めているわけではありません。根拠となる情報や証拠、データを重視しています。というのも、これまで私たちの業界では、言葉や書面上の証明だけが先行し、多くの問題を生んできた側面があるからです。だからこそ、商品の来歴(プロヴェナンス)について顧客に説明する際には、確かな裏付けとなる情報を提示できることが重要だと考えていますし、そのために私は仕入れ先にも同様の情報提供を求めています。
―企業がサプライチェーン管理において、最初に取るべきステップは何だとお考えでしょうか?
私は、顧客に対して、できる限り多くの情報を伝えるようにしています。具体的には、原石をどこで購入したのか、誰から購入したのか、どの地域から来たのか、そして、いつ採掘されたのか、です。これらの情報は、今すぐには重要でないかもしれません。しかし、将来重要になる可能性があります。もちろん、私は自分が「学術論文や地元のニュースを読むのを楽しんでいる、かなりのオタクだ」という自覚はあります。多くの経営者には、そんな時間はありません。それでも私は、企業には、自らの選択が人々や地球にどのような影響を与えているのかを理解しようとする責任があると思っています。幸いなことに、こうした複雑さの中における事業運営を伴走支援するコンサルタントも存在します。小規模ブランド向けにはクリスティーナ・T・ミラー・コンサルティング(Christina T. Miller Consulting)のようなコンサルタントや、コミュニティ・フォー・エシカル・ジュエラーズのような団体が支援を提供しています。大規模ブランド向けにはレヴィン・ソーシズ(Levin Sources)などです。
彼らは企業が、どの問題が自社にとって重要なのか・どんな問いを立てるべきなのか・なぜその問いが重要なのか、を整理する手助けをしてくれます。残念ながら、ジュエリー素材が与える影響に関しては、ワールド・ワイルドライフ・ファンド(World Wildlife Fund)のような、消費者にとって分かりやすく、誰でもアクセスできる情報を提供するグローバルな組織が存在しません。そのため、学ぶ責任は企業側に委ねられています。とはいえ、出発点はとてもシンプルです。まず、自分たちの取引相手を知ること。誰と取引しているのかを理解すること。お金がどこに流れているのかを把握すること。そして、たくさん質問をすること。
―企業は、「誠実さ」と「マーケティング」をどのように両立させるべきでしょうか?
ブランドやデザイナーが抱える、誠実さとマーケティングの両立に対する不安はよく分かります。誰だって、婚約指輪を買おうとしているお客様が、リサイクルゴールドや採掘の現実についての複雑な話を聞いて気分が沈んでしまうような状況は避けたいでしょう。白黒はっきりした物語の方が、微妙なニュアンスを含む話よりも売りやすいのは確かです。しかし、真実はこうです。人生はグレーなのです。完璧に『良い』商品も、完璧に『悪い』商品も存在しません。
とはいえ、新しい世代の消費者はより多くの情報を持ち、社会的・倫理的・環境的な問題に対して、より深い関心を持っていると思います。彼らは、自分の価値観と一致する商品には、より多くのお金を払う意思があります。少なくとも、企業が良い面と悪い面の両方について正直である限りは、商品について多くを知ることは、その商品を買う可能性を下げることにはなりません。そして、誠実なストーリーテリングは信頼を築きます。
多くの企業はすでに、いわゆる『トリプル・ボトム・ライン』が機能することを学んできました。つまり、人・環境・利益の三つです。環境に配慮した選択は、長期的に見れば、結果的にコスト削減につながることも少なくありません。そして先ほども述べたように、消費者は自分たちの価値観と一致するブランドには、より多くのお金を支払う意思があります。私は小規模事業者であり、倫理的な基準によって仕入れ先を限定しているため、非常に大きなビジネスにはなりえません。しかし、その制約の中でも、十分に成立する市場は存在しています。そして、「倫理を語るだけでなく、実際に行動している」企業は、時間をかけて非常に大きな信頼を築いていきます。カナダにいる同業の知人は、15年にわたって本気で責任ある調達に投資してきました。その結果、彼のビジネスは現在非常に大きな成功を収めています。その理由は明確です。
信頼→口コミ→成長という循環が生まれたからです。信頼ほど、よく売れるものはありません。結果が、それを証明しています。
―最後に、今後の展望や業界の将来についてのお考えを教えてください。
私個人として望んでいること、そして業界全体に対して望んでいることをお話しします。私は、ジュエリー素材の購入、そしてそれらの素材から作られる完成品のジュエリーが「ある種の競争」になることを望んでいます。それは、「どの素材が最も大きな善を生み出しているか」を競う競争です。私は、消費者がダイヤモンドや宝石、金属を選ぶとき、「どれが一番悪くないか」ではなく、「どれが最もポジティブな影響を持っているか」で選んでほしいのです。現状では、多くの消費者は「最も怪しくない商品」や「分からない点が最も少ない商品」を基準に選んでいます。しかし私は、社会的・環境的な恩恵が最も大きい素材が、自然と選ばれる未来を望んでいます。採掘は、本質的に環境に優しい行為ではありません。しかし、グリーンな未来を実現するためにも採掘は不可欠です。私たちは銅を必要とし、さまざまな鉱物資源を必要としています。採掘そのものを悪者扱いすることはできません。だからこそ私たちにできるのは、ビジネスのあり方を通じてネガティブな影響を可能な限り減らし、採掘地域にとってのポジティブな影響を最大化することです。それが私の目標です。
インタビューを通して:
今回のインタビューを通して印象的だったのは、ジャレッドの語り口に一貫してあった穏やかさと誠実さでした。彼は決して断定的に語らない。「正解」を押しつけることもない。その代わりに、「なぜそうなっているのか」「本当にそれでいいのか」と、何度も問いを投げかけていました。供給網の透明性、倫理、責任ある調達―簡単な答えのないテーマに対して、彼が選び続けているのは、問い続ける姿勢でした。
そして、彼が繰り返し口にした言葉、「I don’t know(分からない)」。それは、無責任な言葉ではありません。分からないことを隠さず、分かっていることと分かっていないことを区別し、「分からないことも含めて、できる限り正確に伝える」という意思表示です。完璧な情報が揃わないからこそ、あいまいにせず、誤魔化さず、調べ、確認し、問い続ける。その姿勢こそが、信頼を生み、関係を育て、長い時間をかけてビジネスを支えてきたのだと感じさせられました。
彼はこうも語っています。「ジュエリーの生産によって、誰かが傷ついたり、地域が汚染されたりしてはならない。」完璧な答えはなくても、問い続けることはできる。そして、その問いの積み重ねがより良い選択へとつながっていく。今回の彼へのインタビューは、その重要性を教えてくれました。
冒頭写真:ジャレッド・アマデオ・ホルスタイン氏(本人提供)
