【2014年5月実施】
1.リベリアのダイヤモンド採掘労働者の現状
貧困や人権侵害に苦しむ零細採掘労働者は、アフリカを中心に世界に推定1300万人と言われています(世界銀行より)。労働者が養う家族・親戚を平均5名と仮定すると、影響をうけている人口は5千万人以上になります。
「ダイヤモンド採掘労働者自立支援プロジェクト」の実施に先立ち、当団体は、2014年5月にリベリアにて採掘労働者の現状を把握するための基礎調査を実施しました。
【アフリカ大陸におけるリベリアの位置】 |
【調査地域】
リベリア北西部のウィズア、スミスタウン
(首都モンロビアから車で約5時間)
【リベリアにおけるウィズア、スミスタウンの位置】 |
【調査対象】
零細採掘労働者、雇い主及び関係者(採掘担当官、村長、ユースリーダー、仲介業者等)
<ダイヤモンドに関わる人々>
採掘労働者(Artisanal and Small Scale diamond digger) 成人労働者(主に男性)で、雇い主に雇われて採掘労働を行う人のこと。社会の底辺にいる貧困層であるケースがほとんどである。年間収入はゼロ円から5万円程度。雇用されている日は1日2食を提供されるが、賃金をもらえるとは限らない。 雇い主(Miner/Employer) 採掘労働者を雇用している人のこと。男性及び女性。中には自分自身で採掘労働を行う雇い主もいる。採掘労働者より多少の余裕はあるが、裕福ではない。年間収入は0円から10万円程度。自身が雇用する労働者には1日2食を提供しなければならないとされている。 仲介業者(Broker) 雇い主から輸出業者にダイヤモンドを橋渡しする役割を持つ。免許を持つ輸出業者の数が限られているため、政府に登録し認可された仲介業者が各地区に数人存在し、ダイヤモンドを輸出業者に届ける役割を担っている。年間収入は50万円から100万円程度。 輸出業者(Dealer/Exporter) 輸出免許を持ち、ダイヤモンドを国外市場に流通させる役割を担う。年間推定年収は1千万円以上。リベリアで政府の認可を受け、アクティブに活動している輸出業者は10社以下と少数である。輸出業者になる条件は以下のとおり。 1) リベリア国民であること(リベリア国民とパートナーシップを組めば外国人も可)、2) 登録料が支払えること(約250万円/年)、3) 輸出基準(3か月毎に1千万円分以上)をクリアすること。 |
【調査結果概要】
〈収入〉
- 個人差があり、年によってもかなり幅があるが、雇い主で一番多かったのは数百ドル(約1万円)。直近一年間は無収入という人もいた。採掘労働者の雇い主も貧しいケースが多く、食事だけを労働者に支給することも多い。
- 仲介業者は採掘労働者より収入が高く、5千ドル(約50万円)程度。
- 雇い主、仲介業者共に、収入から必要経費を払うため、実際の手取りはさらに低いことが想像される。
〈生活環境〉
- 道路:道路状態がひどく(舗装されておらず、橋もない)、誰もここに来ない。重い病気になった時に隣町や首都に行くのが大変。道中で病人が亡くなることもある。
- 水/衛生:井戸が少ない。水自体も安全ではないので、飲むには沸騰させなければならない。トイレを持つ人は殆どいない。
- 病院:病院が無く、医者もいないし、薬もない。
- 学校:学校がなかったので、自分たちで学校を作ったが、先生を雇えない。先生のうち数名はボランティアである。
- 電気:電気(発電機)を持つ人は殆どいない。
- 識字/計算:採掘労働者及び雇い主のほとんどは読み書きできない。雇い主は計算はできる。
- 暮らし全般:親の代からずっと採掘をしているが、暮らしは全く良くなっていない。
〈採掘の現状〉
- 手続:雇い主が採掘のライセンスを首都で更新するのに時間がかかる。その間、首都に滞在する費用がない。
- 機材:採掘をシャベルのみで行っている。深く掘るには重機が必要。
- 価格:仲介業者に売るダイヤモンドの価格が、そのダイヤを採掘するのにかかった費用を下回ることがある。
理由a:雇い主がダイヤモンドの価値を知らないため、仲介業者の言い値で売るしかない。
理由b:雇い主の生活が苦しい時、仲介業者や輸出業者が経済的支援をすることがある。その場合、支援額が販売価格から差し引かれるため、手取り額が低くなる。
- 採掘作業:雇い主は採掘労働者を雇い、採掘作業をさせている。雇い主自身が採掘することもある。
- 児童労働:数は減ったが、子どもが働く採掘場もある。
〈採掘労働者組合〉
- ウィズア:組合はない。理由a) 組合を登録する費用がない。b)スミスタウンから組合に関するよくない噂を聞いたので、組織化に消極的。
- スミスタウン:10年程前、ロシア企業が来た時に組合を組織した。露企業は数年いたが、コミュニティの発展につながらなかったため撤退してもらった経緯がある。その後、組合の活動は活発でない。
〈要望〉
・善良な投資家に来て欲しい。
リベリアは、他のダイヤモンド産出国と比べると、産出量が少ないこともあり、収入が極度に低く、人々から悲壮感が漂っていました。
そして、産出量より問題なのが、ダイヤモンドの利益配分です。雇い主や彼らが雇っている採掘労働者の収入が極端に低いのは、サプライチェーンの関係者の力関係にあるのです。
2. リベリア国内のダイヤモンドサプライチェーン
リベリア国内のサプライチェーンは次図のようになっています。
この中で最大の利益を得ているのは、輸出業者です、中には、車三台(ポルシェ、トヨタ二台)を所有するかなりのお金持ちの輸出業者も存在しました。
輸出業者にダイヤモンド原石の利益の多くが流れているのは、主に以下の理由によります。
a) 輸出業者のみが輸出許可を持っているため、ダイヤモンドを輸出するには必ず輸出業者を通す必要がある。輸出業者を政府に登録する要件が厳しいため、リベリア国内には10社以下の輸出業者しか活動していない。そのため、国内で採掘されたダイヤモンドが少数の輸出業者に集中し、1社あたりの利益が大きくなる。
b) 輸出業者はダイヤモンド原石の価値を知っているが雇い主やブローカーは輸出業者程の知識を持ち合わせていないため、多くのケースで輸出業者はダイヤモンドを買い叩いている。
3. リベリア政府との協力関係
途上国においてビジネスやプロジェクトを実施する際には政府の協力が必要不可欠です。
幸運なことに、リベリア政府は数年前から、全国の鉱物資源採掘労働者の組合としての組織化を検討しており、その実現に向けて採掘担当副大臣から協力依頼がありました。
組合の組織化、組合の自主的かつ民主的な運営はフェアトレードの基本的な要件の一つであり、採掘労働者や雇い主の自立のために組織化は重要であると当団体も考えています。採掘労働者や雇い主が組合として組織化されることで、今まで交渉できなかった相手に対し団体交渉が可能になり、それまで受けていた不利益を改善できるようになるからです。
リベリア政府としては、現在、採掘や産出量の統計を取ることすらできていないため、彼らを組合化し、登録制にすることで、正確な数字を把握し、正確な税金徴収を図りたい意図もあると推測されます。
結果として、当団体とリベリア政府の目指す方向性が同じであるため、今後お互いの協力関係を深め、プロジェクト実施に向けた具体的な活動における協議を進めていく予定です。
4. まとめ
今回の基礎調査を通して、リベリアにおいて「ダイヤモンド採掘労働者自立支援プロジェクト」を実施できる可能性が高いことが判明しました。
主な理由として、
a)労働の対価として適正な賃金を得て自立したい、そのための支援を欲している採掘地域が複数存在すること、
b)リベリア政府が、採掘労働者を組合化する意向であり、フェアトレードへの関心も高いため、リベリア政府のバックアップの下、プロジェクトを実施できる可能性が高い、ことが挙げられます。
これから詳細を検討し、実施に向け準備していく予定です。
冒頭写真:川で危険な採掘労働をする労働者(DFP撮影、リベリア)