2020年5月13-14日に開催されたオンラインシンポジウム「手掘り採掘事業への新型コロナウイルス感染症の影響」に参加しました。主催者であるレスポンシブ・ジュエリー・トランスフォーマティブ(Responsible Jewelry Transformative)より許可を得ましたので、シンポジウムで議論された内容を紹介させていただきます。
シンポジウム概要
新型コロナウイルス感染症のパンデミックを受け、ジュエラー、採掘村リーダー、採掘専門家、宝飾産業界は、手掘り採掘事業への新型コロナウイルス感染症の影響について議論するため、2日間のオンラインシンポジウムに集まりました。各講演者はそれぞれの専門分野及び共同している村でのパンデミックの影響について述べ、シンポジウムはそれらを共有する機会となりました。講演後はライブチャットで視聴者からの質問を受けつけました。
このシンポジウムの何よりも重要なテーマは、このパンデミック下、鉱業における不透明なサプライチェーンが採掘村に破滅的な影響を与えているということです。 手掘り採掘の村々は平時から極度に脆弱です。パンデミックは彼らの食料調達、労働環境、医療に更なる計り知れないストレスをもたらしているのです。バイヤーは鉱山へ行くことができず、多くの取引が中断。国家間の日常的な渡航及び国内での移動が制限されている状況下では、採掘業は完全に停滞しています。多くの採掘村は家計をダイヤモンドや宝飾用原石の売上に依存しており、この停滞は彼らに多大な損害をもたらしています。
シンポジウムの主な議題は「ジュエラー、消費者、バイヤーなどは、地球規模の問題解決にどのように貢献できるか」というもので、各講演者はそれぞれの専門的経験を踏まえた洞察力で回答しました。スーザン・ウィーラーは、ザンビアで採掘、カットされた4,000カラットのシトリン(黄水晶)を最近購入した責任あるバイヤーグループ化をジュエリーデザイナー達に呼びかけた事例を紹介しました。デザイナーやジュエラーの売上の20%をプログラムに寄付するというもので、現在、そのルールを作成しています。
世界銀行のレイチェル・パークス氏は、共同している採掘村があるNPO及びNGOについては、その関係を活用し、直接彼らに金銭的支援をすることを許可しました。一方、採掘村に独自のルートを持たない組織については、Pactなど既に現地で活動しているNPOやNGOと連携することを提案しました。パネリストはジュエリーデザイナーに対し、今回の強制都市封鎖を、サプライチェーンを見直し、供給業者と倫理的な原料調達を保証するための議論を始めるきっかけにしてほしいと強く訴えかけました。サプライチェーンの適正評価(デュー・デリジェンス)を実施することは、宝飾産業の新たな基準を創設することに寄与します。公正な制度は採掘村の復活力を高め、それはレスポンシブ・ジュエリー・トランスフォーマティブの目標であり、かつ、倫理的精神を持ったジュエラーにとってもそうでしょう。倫理的な過程を経て採掘された色石を調達したいけれどサプライチェーンに関する情報を得る手段がないと感じているジュエラーは、信頼できるモヨ・ジェムストーンズ・プロジェクト(Moyo Gems)をまずはご利用ください。透明性と公平性のために不断の努力をしています。
本シンポジウムは、新型コロナウイルス感染症に対する短期的及び長期的な解決方法を探るための連携を進める場でもあります。世界銀行とNGO Pactは、手掘り採掘事業データのグローバル・プラットフォーム、DELVEを構築するために提携しました。収集したデータを活用し、採掘村での新型コロナウイルス感染症の影響を追跡することで、より効率的な支援が可能となります。Pactはバイヤーが遠隔で原石を購入できるプラットフォームも構築しているところですが、こういった時期での現地パートナーとのネットワーク構築には課題があり、まだまだ初期の段階です。
シンポジウムをとおして、新型コロナウイルス感染症禍のなか、手掘り採掘村は厳しい局面に立たされていることがわかりました。宝飾産業は、特に今回のような予期せぬ事態において、途上国の採掘村に直接影響を与える立場にあります。関係者が連携することによりジュエラーやバイヤーは、希少価値の高い原石への責任を公正に補償するための、より強固で追跡可能なサプライチェーン構築を開始することができます。団結により成し遂げられたことが、パンデミックのさなか、そしてその後の手掘り採掘事業の在り方を形作ることになるでしょう。私たちはそれぞれ、この不平等に向き合い、公正で持続可能なグローバル・システムを構築するための役割を担っているのです。
お役立ちリンク
本シンポジウム録画
Africa Gem Exhibition Conference
講演者
1日目
- スーザン・ウィーラー氏、レスポンシブル・ジュエリー・トランスフォーマティブ(Responsible Jewelry Transformative)
- アンドレア・ヒル氏、ヒル・マネジメント・グループ(Hill Management Group)
- モニカ・スティーブンソン氏、アンザ・ジェムズ社/iダズル(ANZA, iDazzle)
- スチュアート・プール氏、ナインティーン48社(Nineteen48)
- ブライアン・クック氏、ネイチャーズ・ジオメトリー社(Nature’s Geometry)
- ジェシカ・ハドソン氏、ノマド・ジュエラー(Nomad Jeweler)
- モニカ・ギチュヒ氏、エイ・ジー・イー・シー(AGEC)
- エリック・ブローンワート氏、コロンビア・ジェム・ハウス社(Columbia Gem House)
2日目
- スーザン・ウィーラー氏、レスポンシブル・ジュエリー・トランスフォーマティブ(Responsible Jewelry Transformative)
- アンドレア・ヒル氏、ヒル・マネジメント・グループ
- レイチェル・バーニス・パークス氏、世界銀行
- ベンジャミン・カッツ氏、経済協力開発機構(OECD)
- クリスティーナ・ヴィレガス氏、パクト・ワールドワイド(Pact Worldwide)
本記事は、シンポジウム主催者であるレスポンシブ・ジュエリー・トランスフォーマティブ(Responsible Jewelry Transformative)の許諾を得た上で、当団体が概要を作成し公開したものです。