スマートフォン、時計と児童労働-そしてOECDがなすべきこと-

【2016年5月9日 ジュリアン・キッペンバーグ(ヒューマン・ライツ・ウォッチ)】

私は、最近ガーナで「ジョシュア」に出会いました。ジョシュアは7歳くらいで、金鉱山で働いています。砕石機の粉塵と騒音に囲まれながら、彼の仕事は金鉱石をシャベルですくい、金を取り出すことです。ジョシュアと彼の友達は、金の加工過程で放出される有毒な水銀蒸気を吸っています。

ガーナで水銀を使うジョシュア
金の加工過程で用いる水銀を見せる12歳のガーナの少年 (Human Rights Watch、2014年)

ジョシュアは、アジア、アフリカ、ラテンアメリカに100万人いると推定される小規模鉱山で働く子どもの1人です。これらの鉱山は単純な設備で運営されており、多くはインフォーマルセクターの一部です。

今週、OECD(経済協力開発機構)はこの問題に対応する機会があります。パリ本部においてフォーラムを開催し、現在の鉱物の供給がOECDが2011年に設けたデュー・ディリジェンス・ガイダンス(Due Diligence Guidance)*を満たしているかを評価するのです。ガイダンスは、児童労働などの深刻な人権侵害に企業活動が加担しないよう、企業がとらなけれればならない5つのステップを定めています。これは紛争地域だけでなく、構造的な脆弱性を抱えるガーナのような「リスクの高い」地域にも適用されます。

これまでOECDは鉱物のサプライチェーンにおける児童労働問題に対して十分に取り組んできませんでした。

Great Lakes Region
アフリカのグレート・レイクス地域(DFP編集部による補足)

焦点は、紛争鉱物と紛争で分裂したグレート・レイクス地域(地図参照)から責任を持って鉱物を調達するための企業がとるべき行動に当てられてきました。児童労働の問題に対してはほとんど注意が向けられておらず、OECD、政府、企業による具体的な措置は十分なされていないのです。

ヒューマン・ライツ・ウォッチは、小規模金鉱山で働く子どもたちが直面するリスクを記録してきました。子どもたちは、採掘場の崩壊によって死亡したり、事故で負傷したり、水銀中毒の危険にさらされています。水銀は、金鉱を加工する過程で金の粒子を回収する為に使われる液体金属であり、脳へのダメージ、心臓や肺、そのほか回復不能の健康被害を引き起こします。鉱山で働くことは、子供の教育をも犠牲にしています。鉱山で働く子どもたちは、規則正しく学校に通うことが難しく、中退してしまうこともあるのです。

ヒューマン・ライツ・ウォッチのガーナ、マリ、フィリピン、タンザニアにおける調査では、政府も企業も鉱山における児童労働に対して十分に取り組んでいないことがわかりました。これらの国々では児童労働を排除するための法律や政府機関がありますが、法律は施行されないままで、政府機関は無力です。企業は、サプライチェーンの中で児童労働が行われていないことを保証するためのデュー・ディリジェンス*をとらないことがあります。多くの地元の金の売買人は、彼らが金を調達する採掘場の労働環境を調べず、児童労働者から金を購入することさえあります。そうしてこの「汚れた」金はグローバル企業のサプライチェーンに入り込んでくるのです。世界で供給される金のうち約15%が小規模金採掘現場からもたらされています。

ガーナでは、仲買人が、児童労働が一般的に行われている無許可の鉱山から金を購入し、児童労働によって採掘された金を排除する措置が不十分な輸出企業に売っていることがわかりました。こうした企業の中には、メタロー(Metalor)、エミレーツゴールド(Emirates Gold)、カロチ(Kaloti)といったドバイやスイスにある主要な精錬業者へ金を輸出する場合もありました。このようにして、ジョシュアが加工した金が私たちの時計や電話、その他の製品に使われているのかもしれないのです。

OECDではいくつか期待できる兆候がみられます。今週のOECDのフォーラムでは、企業がサプライチェーンの中で児童労働を見つけるために使える方法を議論します。OECDはまた、急速に児童労働問題を彼らの課題として組み込んできています。これらは、児童労働の防止措置が実施されることを、鉱物のサプライチェーンにいる企業に納得させるための、はじめの一歩となります。

必要なことは、OECD、政府、企業による協調した取り組みです。サプライチェーンのいかなる地点にいる企業も断固として児童労働に対するデュー・ディリジェンスを行うべきです。企業にはサプライチェーンの中で児童労働のリスクを見極める管理システムが必要なのです。それは、発見・確認されたリスクへの対応、独立した第三者による監視の実施、デュー・ディリジェンスへの取り組みの努力の公開などです。これに加え、ココアやタバコ産業での児童労働に対する業界主導の取り組みと同じように、企業はより幅広い取り組みを進めるべきです。OECDのフォーラムは、ガイダンスや議論の場の提供、専門家のインプットなどで、こうした業界の取り組みを支援すべきです。

最後に、OECDとその加盟国は取り組みをより一層進めなければなりません。企業が責任のある鉱物の調達を達成するためには、自発的な行動規範や基準では不十分です。OECDは、デュー・ディリジェンス・ガイダンスの実行を、定期的かつ公に見直すことを含め、効果的に監視する仕組みを作るべきです。加盟国は、現在フランス議会が検討しているように、人権のデュー・ディリジェンスをすべてのビジネスセクターの法的要件とすべきであり、また今月の国際労働会議で人権とグローバルサプライチェーンに関する国際条約に投票するべきです。

こうしたステップをとることが、ジョシュアのような子どもたちの将来を明るくするのです。

*デュー・ディリジェンス:事業上の影響を特定・評価し、回避または軽減するための継続的なプロセス

冒頭写真:スマートフォンと腕時計(DFP編集部によるイメージ写真)

※本記事は非政府組織「Human Rights Watch」ホームページに掲載された記事をDFPにて翻訳したものです。

原文:「Child Labor in Our Smart Phones and Watches—And What the OECD Should Do About It」(2016年8月10 日閲覧)
https://www.hrw.org/news/2016/05/09/child-labor-our-smart-phones-and-watches-and-what-oecd-should-do-about-it