世界のダイヤモンドサプライチェーンと中央アフリカ共和国の実態
【2015年9月30日 アムネスティ・インターナショナル】
豊富な鉱物資源に恵まれているものの、貧困、紛争、腐敗によって分裂している国々の悲劇が広範囲にわたって報告されています。武装勢力、犯罪組織、腐敗エリート、悪徳企業が鉱物取引を全て食い物にし、さまざまな違法および/または非倫理的行為によって、何年にもわたり発展途上国から巨額の富を奪っています。
結果的に、現地の人々が鉱物採掘から大きな利益を享受することは稀ですが、彼らが汚染、紛争、搾取という人権への影響を抱えて生きていかなければならないことは頻繁にあるのです。そのような状況の中で採掘された鉱物の多くが結果として有名な消費財となっており、それは宝飾品のダイヤモンドからスマートフォンのコルタンまで広くにわたります。
本報告書は、ダイヤモンドのサプライチェーンに焦点を当て、ダイヤモンド原石の採掘や取引に関連した、人権侵害やその他の違法および非倫理的な行為について扱っています。まず報告書は、2012年後半以降、紛争に巻き込まれているダイヤモンド埋蔵国、中央アフリカ共和国の事例を扱っており、その後、中央アフリカ共和国からドバイやアントワープの国際的なダイヤモンド取引市場へのサプライチェーンについての話に移ります。
本報告書は国際的なダイヤモンドのサプライチェーンに関する大規模な文献調査に基づいており、ダイヤモンドの輸出入に関する資料の再調査も含んでいます。文献調査は、中央アフリカ共和国、アラブ首長国連邦、カメルーン、ベルギーの4か国における実地調査によって補強されました。アムネスティ・インターナショナルの調査員は、同4か国の政府や本報告書で挙げられた多くの企業と話したり、彼らに書簡を送ったりして、同機関の調査結果についてコメントする機会を与えました。
中央アフリカ共和国国内のダイヤモンド市場:人権侵害と紛争への資金供与
中央アフリカ共和国は世界で最も貧しい国の1つです。
2012年12月、主に中央アフリカ共和国のイスラム教少数派から成る反政府武装勢力のセレカは軍事攻撃を開始し、2013年3月、当時の政府を崩壊させました。2013年半ばには、主にキリスト教徒やアニミストから成る武装勢力アンチ・バラカが国内全土で台頭し始めました。アンチ・バラカはセレカを排撃しようと決意しただけでなく、イスラム教徒の市民も標的にしました。セレカとアンチ・バラカは紛争を通して、おぞましい人権侵害を行ったため、5,000人以上の人々がこれまでに亡くなりました。
暫定政府が2014年1月に樹立されましたが、暴力行為を止めるほどの軍事力はほとんどありません。国際平和維持軍のおかげで、一部の地域にはある程度の治安がもたらされましたが、武装勢力は依然として国内の多くの地域で活発に活動を行っています。
セレカ政府が政権を握るまでは、ダイヤモンド産業は中央アフリカ共和国経済に大きく貢献しており、それは国内の全輸出額の約半分、予算収入の20%でした。セレカが政権を握った2か月後の2013年5月、キンバリープロセスは中央アフリカ共和国のダイヤモンドに対して禁輸措置を課しました。キンバリープロセスは、政府間のダイヤモンドのサプライチェーンのイニシアチブであり、「紛争ダイヤモンド」の国際的な取引を止めることを目指して、2003年に設立されました。
キンバリープロセスの禁輸措置によって、中央アフリカ共和国国内のダイヤモンドの取引が禁止されたわけではありませんでした。紛争中、何千人もの零細採掘労働者がダイヤモンド採掘を続け、仲買人にダイヤモンドを販売していました。次に仲買人は、首都バンギにあるダイヤモンド輸出企業(買付企業として知られています)にダイヤモンドを販売し、ダイヤモンドはそこで留まっています。中央アフリカ共和国国内のダイヤモンド取引の継続は、何万もの人々が生計のためにダイヤモンドに依存している国において、避けられないことでした。
セレカとアンチ・バラカは中央アフリカ共和国国内のダイヤモンド取引から大きな利益を得ています。一部の事例では、彼らが採掘現場を支配しています。彼らが採掘業者や仲買人に「税金」や「見かじめ料」を要求することが常態化しています。両勢力は、零細採掘労働者や仲買人に対して凶悪な暴行を働いています。セレカやアンチ・バラカがどの程度ダイヤモンドを組織活動の資金源としているかは、厳密には分かりません。彼らがダイヤモンド取引を全て支配しているわけではなく、その本質上、強奪を推測することは難しいのです。両勢力は、金や農作物などのその他の産品に「課税」することでも資金を得ています。
武装勢力の関与が中央アフリカ共和国のダイヤモンド業界における唯一の人権問題ではありません。零細採掘労働者は危険な状況で働いていることが多く、国家は、たとえそれが機能しているときでさえも、保護の面でほとんど対策を講じていません。採掘労働者は、無秩序な採掘現場で深刻な健康と安全性のリスクにさらされています。採掘労働者はダイヤモンド取引をしている中間業者から搾取される関係に置かれているため、ごくわずかなお金のために骨の折れる仕事を行っています。NGOはダイヤモンド鉱山での児童労働を報告し、アムネスティ・インターナショナルは、11歳の少年を含む数人の子どもがダイヤモンド採掘現場において危険な状況の中で働いていることを明らかにしました。しかし、児童労働問題の規模は一度も調査されたことがありません。
中央アフリカ共和国の買付企業は禁輸措置が実行されて以降、バンギで一部のダイヤモンドを蓄えてきました。主要ダイヤモンド買付企業の2社のバディカとソディアムは紛争中に合わせて数百万ドル相当のダイヤモンドを購入してきましたが、その中にはセレカやアンチ・バラカがダイヤモンドの採掘労働者や仲買人から不当にお金を要求していることで知られた地域が原産のダイヤモンドも含まれています。両社が紛争ダイヤモンドの購入を否定している一方で、両社が武装勢力の資金源となっていないかを正確に調査することなく、ダイヤモンドを購入してきたと、アムネスティ・インターナショナルは確信しています。国連は最近、ダイヤモンドの購入を通じて、セレカやアンチ・バラカを援助しているという理由で、バディカと姉妹会社のカルディアムに制裁を課しました。
キンバリープロセスは2015年7月、一定の条件が満たされれば(本報告書の発行日現在、それらの必要要件は満たされていなかったため、禁輸措置はまだ継続しています)、中央アフリカ共和国が一部の地域でダイヤモンドの輸出を再開することに合意しました。中央アフリカ共和国の暫定政府は、同国がダイヤモンドの輸出からの収益を大いに必要としているため、この転換に賛同してもらうためのロビー活動を行っていました。また、キンバリープロセスは、中央アフリカ共和国の買付企業によって貯蔵されたダイヤモンドが「法廷会計監査」を受けることを条件に輸出されることができることに同意しました。そのダイヤモンドが何らかの形で武装勢力の資金源になっていないか十分に調査しない限りこれがどう影響するか分かりませんが、そのような地域の禁輸措置が一旦解除されると、「紛争ダイヤモンド」が国際市場に輸出され、消費者に販売される可能性は明らかです。バディカやカルディアムからダイヤモンドを購入することが、いずれにしても中央アフリカ共和国への国連の制裁措置に対する違反となります。
アムネスティ・インターナショナルは、バンギで保管されたダイヤモンドから中央アフリカ共和国の市民が利益を得られるようにする一方で、武装勢力の資金源となるダイヤモンドを分かっていながら購入した、あるいは武装勢力を支援する事業運営を防止するための適切な確認を行わなかったということが明らかな企業に制裁を課すプロセスを求めています。国連安全保障理事会は、中央アフリカ共和国のダイヤモンドの搾取を通して、違法な武装勢力を支持することで、平和、安全、安定が損なわれると明言し、関与した国々に対して制裁を課す意向を表明しました。
国際的なダイヤモンド市場:違法および非倫理的行為に対して見て見ぬふりをする
一部のダイヤモンドが買付企業によって貯えられている一方、紛争中に採掘および取引されたその他の多くのダイヤモンドは中央アフリカ共和国からコンゴ民主共和国やカメルーンなどの隣国へ密輸されています。ダイヤモンドの密輸は現在の紛争以前でも中央アフリカ共和国において深刻な問題でしたが、大部分の業界精通者は、紛争開始以降、密輸が増加していると認めています。国連は、さらに14万カラットのダイヤモンドが2013年半ば以降、中央アフリカ共和国から密輸されていると推計しています。しかし、そのうちごくわずかなダイヤモンドしか中央アフリカ共和国産のダイヤモンドとして疑われて国際的に押収されていません。したがって、それらの大半が国際市場で流通し、消費者によって購入されている可能性が高いのです。
陸路や航路で中央アフリカ共和国と直接的に繋がっている国々が密輸されたダイヤモンドの最終目的地である可能性は低く、一般的にダイヤモンドは国際的な取引市場で販売されて初めて本当の価値を実現するのです。世界の二大ダイヤモンド取引市場はベルギーとアラブ首長国連邦にあります。どちらもキンバリープロセスに加盟しているため、ダイヤモンドの輸出入を規制するための効果的なシステムが存在することになっています。しかし、調査員らは、多くの欠陥を見つけ、密輸されたダイヤモンドがこれらの場所から正規のサプライチェーンに入っている可能性があることを突きとめました。関連する貿易業者、ダイヤモンドおよび書類の数が非常に多いことにより、取引の管理や記録の確認が難しくなり、規則を遵守しないダイヤモンド取引業者への監視と制裁に抜け道が生じているのです。
さらに、調査員らは国際的なサプライチェーン内の特定の慣習によって、一部のダイヤモンド取引業者(多国籍企業が多い)が貧しいダイヤモンド生産国の犠牲と引き換えに巨額の利益を得ていることを明らかにしました。たとえば、企業は節税するためにダイヤモンドの購入あるいは販売価格を操作する場合もあります。これには発展途上国から輸出されているダイヤモンドの過小査定行為も含まれている可能性があるのです。専門家は、アフリカ地域の国々が密輸や税の不正慣行などの行為のせいで毎年何十億ドルも失っていると見積もっています。それらの収入を失っていることは、教育や医療など、人権の実現に必要となる重要なサービスに政府が予算を充てる能力を弱めているということです。国連の人権機関は、アフリカの発展途上国から富を流出させる違法な動きを深刻な人権問題としてますます認識しています。
税の不正慣行は、主なダイヤモンドの取引が、企業の利益に対する課税が生じない「特区」において行われるアラブ首長国連邦においてよく見られます。しかし当局は、それら行為への厳重な取り締まりが行えないだけでなく、問題に対して無関心な態度を示しています。アムネスティ・インターナショナルは、アラブ首長国連邦政府が、アフリカからの富を流出させる違法な活動に加担していると考えます。
ダイヤモンドのサプライチェーンにおける権利の侵害を終わらせるために
ダイヤモンドのサプライチェーンに沿って注目していく中で、本報告書は、いかにしてダイヤモンドに関連する法的、倫理的および人権のリスクが紛争を超えて拡大しているかを明らかにしています。採掘現場での状況から、ダイヤモンドの価格設定や密輸に関係する発展途上国からの違法な富の流出に至るまで、武装勢力、密輸業者、企業などのさまざまな当事者らが貧困、人権侵害、違法な活動から利益を得ているのです。密輸や税の不正慣行により、貧しい国々が収入を奪われている一方で、当事者らは不正な金銭的利益を手にしています。国を超えたダイヤモンドのサプライチェーンの本質がそのような権利の侵害を助長しています。
キンバリープロセスは、国際的な協調によって支持されている数少ない鉱物サプライチェーンのイニシアチブの1つであり、実施機構です。しかし、キンバリープロセスにはいくつかの重大な限界や弱点があり、本報告書内で特定された多くの侵害には対処できていません。
キンバリープロセスの重大な限界の1つは、その対象の狭さであり、「紛争ダイヤモンド」だけに焦点を当てているため、ダイヤモンドの採掘や取引、不正な政府軍の財源となってきたダイヤモンドに関連する、その他の人権問題は含まれていないのです。
さらに、キンバリープロセスは、紛争ダイヤモンドの国際的な取引だけに取り組んでおり、国内取引には対処していません。武装勢力の財源となってきたダイヤモンドが国際市場に入るのを阻止するという中核的な活動に関してでさえ、本報告書は中央アフリカ共和国の状況において多くの問題を明らかにしています。それは中央アフリカ共和国国内の武装勢力が活動運営の資金源にするためにダイヤモンド取引から搾取し続けているだけでなく、キンバリープロセスの禁輸措置以降、密輸が増加しているとみられるというものです。
キンバリープロセスのもう1つの限界は、キンバリープロセスが企業に対して自社のサプライチェーンを監視する責任を負わせていないということです。ビジネスや人権についての国際基準の下で、企業は事業活動を通して、人権を尊重する責任があり、事業活動に関連した人権侵害を特定、防止、軽減し、必要ならば是正するための実態把握と調査のプロセスを構築すべきです。世界のダイヤモンドのサプライチェーンに関わる企業は何千社も存在し、本報告書がそれら企業の活動全てを調査しているわけではありませんが、業界の中心的企業がそれらの国際基準に従って、本報告書内で提起された問題に対処していないということは明らかです。たとえば、税の不正慣行に関与している企業は、ビジネスと人権についての国際基準に違反しています。国家が企業に責任をもって活動することを求めていてもいなくても、人権を尊重する責任があるということが、それらの基準によって明白になっています。企業が発展途上国を犠牲にして脱税し、実質的な利益を吸い取る目的で故意にそれらの税の慣行を利用するならば、その税の慣行が合法であったとしても何の言い訳にもならないのです。
本報告書で記録された国家や企業による不履行は、紛争や人権侵害に関わるダイヤモンドが国際消費者市場の中で流通していることを意味します。アムネスティ・インターナショナルやその他のNGOの幅広い活動により、本報告書内で特定されたのと同様の問題が他の鉱物サプライチェーン内でも起こっていることが示唆されています。そのような状況の中、アムネスティ・インターナショナルが国家や関連する地域機構に求めているのは、「OECD紛争地域および高リスク地域からの鉱物の責任あるサプライチェーンのためのデュー・ディリジェンス・ガイダンス」などの国際基準に沿って、鉱物サプライチェーンを調査し、公に報告することを企業に求める法律を採択することです。
本報告書はまた、採掘現場での状況、密輸、税の不正慣行を対処し、ドバイやアントワープの主要な貿易センターの貿易業者の監視を改善するためにその他多くの具体的な提言も行っています。たとえば、以下のような提言です。
- 重大な人権関連の犯罪、武装勢力への資金供与、マネーロンダリング、密輸などの違法行為に関連した鉱物の取引を防止できなかったことに対する企業犯罪あるいは同等の行政法上の違反という処分を新たに導入するよう国家に求めること。
- 厄介な行政的あるいは金銭的要件を課すことなく、労働者による安全なダイヤモンド採掘を支援するための仕組みを構築し、必要ならば、この目的を達成するために国際協力や支援を依頼するよう中央アフリカ共和国に対して求めること。
- 発展途上国からのダイヤモンドの重大な過小査定に異議を唱えること、関連政府やキンバリープロセスにそのような過小査定を報告することなどによって、不正な振替価格操作の慣行やアラブ首長国連邦のダイヤモンド原石の輸出入の間の大きな価格変更を阻止するための措置を取るようアラブ首長国連邦に求めること。
- ベルギーやアラブ首長国連邦におけるダイヤモンドの取引業者の記録やプロセスを監視するためのシステムをより強固で透明なものにすること。
提言
【中央アフリカ共和国政府に対して】
・2015年7月のキンバリープロセスの決定の下で、一定の基準を満たす準拠領域を運用可能にすることに照らして、以下を求めます。
― 問題となっている地域の安全が再構築されたことや、武装勢力がその地域でのダイヤモンド採掘や輸出から直接的にも間接的にも利益を得ることができないことを政府が確信して初めて、準拠領域と認められるようにすること。
― 準拠領域へ流入する、あるいは準拠領域から流出するダイヤモンドの密輸を防止するための効果的なシステムを構築し、ダイヤモンドが中央アフリカ共和国から輸出される前に適切に査定され、輸出税の対象となるようにすること。
― そのようなシステムの構築にあたり、法執行機関、税関職員、キンバリープロセスの関係者が団結し、国際的なパートナーと協力すること。
― 「準拠領域のための運営体制」の第2項(c)の下で、キンバリープロセス監視チームに提供された全てのデータと、全ての輸出、輸出者、支払われた税金の詳細を公開すること。
・バディカ、ソディアムおよびバンギで在庫をもつその他の買付企業が2013年5月以降に購入したダイヤモンドが武装勢力の資金源に直接的にも間接的にもなっていなかったという妥当な証拠を示せなければ、それらの企業によって保管された全てのダイヤモンドを押収すること(この目的に対して、ダイヤモンドの原産が中央アフリカ共和国東部あるいは西部であるという証拠を単純に提示するだけでは不十分です)。押収されたダイヤモンドは販売され、その全収益が公益のために使われるべきです。政府はダイヤモンド販売の売上がどのように使われたかを示すために公会計を開示すべきです。それらの在庫の法廷監査は透明かつ、詳細なもので(ダイヤモンドの出所、採掘日、鉱山から買付企業までのサプライチェーン、ダイヤモンドが直接的にも間接的にも武装勢力の資金源になっていないことを保証するために実施された査定手続きといった情報を示す証明書類を含む)、公開されるべきものです。
【零細採掘労働者に関して】
― 労働者による安全な採掘を支援する仕組みを構築すること。零細採掘労働者を支援するためのシステムは、第一の目的として生計の権利を有するものであるため、厄介な行政的あるいは金銭的要件を課すべきではありません。
― 仲買人による零細採掘労働者の搾取を防止するためのシステムを構築すること。仕組みは、協議プロセスを通して構築され、安定性や予期せぬ結果をもたらさないことを確認するために検証されるべきです。
― 子どもの利益を最優先にして、採掘現場の児童労働に取り組むための対策を講じること。
【ダイヤモンド生産国および取引国の政府(中央アフリカ共和国、カメルーンおよびコンゴ民主共和国を含む)と関連地域機構(ヨーロッパ連合を含む)に対して】
・自らの国/地域に本社のある、あるいは拠点のある企業に対して、「OECD紛争地域および高リスク地域からの鉱物の責任あるサプライチェーンのためのデュー・ディリジェンス・ガイダンス」や「ビジネスと人権に関する国連指導原則」などの国際基準に従って、それら企業のサプライチェーンについて調査し、公に報告するよう求める法律を整備すること。そのようないかなる法律も、鉱物資源の豊富な国々(特に発展途上国)の不安定性や貧困の根本的な要因に対処するための対策によって後押しされるべきです。
・深刻な人権関連の犯罪、武装勢力への資金供与、マネーロンダリング、密輸などの違法行為に関連した鉱物取引を防ぐことができなかったことに対する企業犯罪あるいは同等の行政法上の違反(つまり、2010年英国贈収賄法の第7条と同等のデュー・ディリジェンス抗弁権のある厳格責任犯罪)という処分を新たに導入すること。
【密輸に関して(特に中央アフリカ共和国産ダイヤモンドの密輸)】
― キンバリープロセスで要求されている通り、中央アフリカ共和国産のダイヤモンドを特定するための高度な監視対策を講じること(入国および出国地点での対策強化を含む)。
― 世界税関機構、キンバリープロセス、金融活動作業部会(FATF)などの国連およびその他関連機関などを通して、ダイヤモンドの密輸を阻止し、密輸ルートや資金移動の追跡を高めるための支援や協力を求めるとともに、自らも支援や協力を行うこと。
― 空港や関連の国境検問所の全ての税関職員がキンバリープロセスについて十分に教育を受け、彼らが紛争ダイヤモンドの取引を特定かつ防止し、またダイヤモンドの密輸を防止するために厳重な検査を実施できるようにすること。
― 人権に関する国際法や国際基準に従った方法で密輸に加担した者を起訴すること。
― 生産(地域や国別の可採量および実質的な生産量)や輸出入についての詳細な統計、押収物の詳細を公表するなどして、ダイヤモンド取引の透明化を向上させること。
【経済協力開発機構(OECD)に対して】
・「OECD紛争地域および高リスク地域からの鉱物の責任あるサプライチェーンのためのデュー・ディリジェンス・ガイダンス」のためのOECD実施プログラムの一環として、ダイヤモンドのサプライチェーンに関する特別な取り組みを開始し、ダイヤモンドの生産国、取引国およびその他の利害関係者とともに、ダイヤモンドについての特別ガイダンスを策定するために協議プロセスを立ち上げること。この取り組みでは、企業がサプライチェーンにおけるリスクを特定し、管理し、公開できるようにし、またそれを奨励することに重きを置くこと。特に、紛争への資金供与や人権侵害を防止する対策の効果を評価できるようにすること。
・OECDのデュー・ディリジェンス・ガイダンスの効果的な実施と影響を確実なものにするために、国家や関連する地域機構に以下を行うよう働きかけること。
― 企業がサプライチェーンのデュー・ディリジェンスに取り組めるように、ガイダンスを採択して法律化し、その他の補完的な対策を講じること(たとえば、サプライチェーンのデュー・ディリジェンスを公的な契約の締結や輸出信用の付与の条件の1つとするなど)。
― 鉱物資源の豊富な国々(特に発展途上国)における不安定性や貧困の根本的な要因に対処するための取り組みを支援すること。
【アラブ首長国連邦政府に対して】
・貿易業者に対して、在庫、輸出入品、現地調達品、実績などを年次監査や独立監査にかけるよう要求すること。それらの監査や在庫の定期的かつ厳格な抜き打ち検査を実施し、特別なリスクがあるとみなされた貿易業者の監視を強化すること。
・キンバリープロセスのアラブ首長国連邦事務所をドバイ・マルチ・コモディティーズ・センター(DMCC)ではなく経済省の直接的な監視下に置くことで、ダイヤモンドの輸出入および取引の監視を強化すること。
・ダイヤモンド原石の誤った査定、不正な振替価格操作、輸出入の間の大きな価格変更の慣習に関して、以下の対策を講じること。
― 過小査定や過大査定の慣習を断つために、必要ならば専門家を雇用し、ダイヤモンドを査定するキンバリープロセスのアラブ首長国連邦事務所の機能を実質的に強化すること。ダイヤモンドの価値が15%以上過大あるいは過小に査定されていると思われる場合に専門家は調査を始めるべきです。ダイヤモンドを過大あるいは過小に査定する企業に対しては、初犯には比較的軽い制裁を科す一方で、多重の犯罪には営業ライセンスを剥奪できるようにするなど、段階的な抑止措置を用いて制裁すること。
― 価格変更の程度を含め、多国籍系列の全ての企業間のダイヤモンドの売上が公開されるよう要求すること。このプロセスは、もし同じ系列会社内である場合、研磨事業やカット事業への売上も含むべきです。そのプロセスを回避し、不正な振替価格操作に関与する企業間の癒着は犯罪行為とみなすべきです。
― アラブ首長国連邦に流入およびそこから流出するダイヤモンド原石の不正な振替価格操作や輸出入間の大幅な価格変更の慣習を断つために対策を講じること。これには、発展途上国からのダイヤモンドの深刻な過小査定に異議を唱えること、政府やキンバリープロセスにそのような過小査定を報告することも含みます。
【ベルギー政府に対して】
・全ての貿易業者(取引所の会員だけではなく)に対して、在庫、輸出入品、現地調達品、実績について年次監査や独立監査にかけるよう要求すること。それらの監査や在庫の定期的かつ厳格な抜き打ち検査を実施し、特別なリスクがあるとみなされた貿易業者の監視を強化すること。
・当局によって、特別なリスクがあると見なされるが、取引を停止されていない、あるいは取引所から排除されていない会員が、迅速な輸出手続きによる利益を享受しないようにすること(つまり、輸出するダイヤモンドがEUのキンバリープロセスの法律の規定に従って、合法的にベルギーに輸入された、または国内取引されたという「確実な証拠」を提出することを求めること)。
【ダイヤモンド業界の企業に対して】
・人権のデュー・ディリジェンスに関する方針や実施の公表などを通して、企業活動のあらゆる面で人権を尊重することを公に約束すること。
・「OECD紛争地域および高リスク地域からの鉱物の責任あるサプライチェーンのためのデュー・ディリジェンス・ガイダンス」や「ビジネスと人権に関する国連指導原則」などの国際基準に従って、適切なシステムを構築し、その業務に関連した人権侵害を認識し、防止し、対処できるようにし、責任をもって、ダイヤモンドやダイヤモンドを含む製品の出所を明らかにすること。またこれらの国際基準に従って講じた対策について公表すること。
※本記事は非営利団体「アムネスティ・インターナショナル」ホームページに掲載された報告書を、同団体の許可を得て、DFPにて抜粋し翻訳したものです。
原文:「CHAINS OF ABUSE: THE CASE OF DIAMONDS FROM THE CENTRAL AFRICAN REPUBLIC AND THE GLOBAL DIAMOND SUPPLY CHAIN」(2016年3月6日閲覧)
https://www.amnesty.org/en/documents/afr19/2494/2015/en/
関連リンク:
- 経済産業省 OECD紛争鉱物ガイダンスに関する関連資料
http://www.meti.go.jp/policy/trade_policy/oecd/html/guidance.html
- 国連広報センター ビジネスと人権に関する国連指導原則
http://www.unic.or.jp/texts_audiovisual/resolutions_reports/hr_council/ga_regular_session/3404/